ワケあり!
「おはようー絹さんっ!」

 インターフォンのカメラいっぱいに――了の顔。

 今日は、ボスがリアルタイムで見ている。

 声を殺して身悶える彼に、絹は朝から上機嫌だった。

 録画機能は、すでにつけられたが、リアルタイムで見ると聞かなかったのだ。

 島村が、ボスは徹夜明けだ、と言って通りすぎていく。

 しかし、徹夜の疲れも了で癒されたようだ。

「おはようございます」

 その影響で、いい笑顔で広井ブラザーズに対面できた。

「絹さん、今日…いい匂いする」

 今日の彼女は、真ん中の席。

 昨日のことを教訓にした将に、先に引っ張り込まれたのだ。

 両手に花の彼女に、了が顔を近付けてくる。

「はい、了くん」

 末っ子の鼻に、くすくす笑いながら、絹はラッピングされた小袋を出した。

「わぁ、クッキーだ!」

 ちびっ子が紐を解くのは、マッハクラスだ。

「おいしいといいのだけど…」

 将の方を向き直り、彼にも。

「あ、ありがとう」

 将は、すぐに開ける様子はなかった。

 しかし、緩む顔で袋を眺めている。

「京さんも…」

 真ん中の席は、助手席に手を出しやすい。

 絹は、クッキーの袋を二つ差し出した。

「えー京兄ぃだけ、二つ? ずーるーいー」

 目ざとい了が、突っ込みを入れる。

 将の視線も痛かった。

 京は顎を向けて、探るように絹を見ている。

「京さんの分は、ひとつですよ」

 二つの袋を受け取らせながら、彼女はにこりと微笑んだ。

「えーじゃあ、最後の一個は?」

 計算が合わないと、了が食い下がってくる。

 絹は、すでに開けられた了の星型のクッキーを一つ取ると、末っ子の不満そうな口に、一つ入れてあげた。

 その顔を、目を奪われたように了が見ている。

 瞳の中に映る、自分を見ながら。

 目を細めて。

 こう言った。

「最後の一個は…運転手さんの分です」

 兄弟の誤解は――これで万事解決。
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