ワケあり!
 クッキープレゼントも無事終わり、絹と将は教室へと向かう。

 席につくと、早々に彼女に黒い影が落ちた。

「おはよう、高坂さん」

 あー。

 その声に、顔を上げるのもいやだった。

 また、奴だ。

 やはり、クラスメートだったのか。

 昨日、はっきりと拒否したのに、しつこすぎる。

 ただ、唯一の救いは、隣に将がいることだ。

 せめて、彼を巻き込めば、ボスも喜ぶだろう。

「おはよう…ございます」

 絹は、ちらりと横の将を見た。

 ヘルプの視線だ。

 幸い、将はこっちを見ていたので、すぐに目が合う。

「高尾…絹さんと知り合いだったのか?」

 事情を知らない彼は、怪訝に男に呼び掛ける。

「おまえとは話してない…高坂さんに用があるんだ」

 高尾と呼ばれた男は、明らかに蔑視した声で、将の言葉を拒絶する。

 ああ、いっそ。

 絹は思った。

 いっそ、ボス、ミサイルうっちゃって下さい。

 半ば、本気でそう思ったのだ。

「ねぇ…高坂さんのお父さんって、高坂巧って言わない?」

 絹の机に両手をついて、高尾は衝撃的なことを口にした。

 父、と言うのは間違いだが、巧とは間違いなく――ボスの名だ。

 絹は、忌々しくも顔を上げてしまった。

 一体、どこから調べたのか。

 学校の絹のファイルは、不明扱いなはずなのに。

「当たり? やりぃ」

 確信を、得てはいなかったのだろう。

 いまの絹の顔で、理解した、というところだ。

「ここに通っといて、お嬢様じゃないとか言いだすからさー、驚いたよ」

 絹が、拒否の言葉を吐けないでいるのをいいことに、ぺらぺらとしゃべり続ける。

 昨日、あれから彼女の事を調べていたのか。

 そんな高尾の顔が、すうっと絹に降りてくる。

 声が、ひそめられる。

「高坂巧って、妾の子だったんでしょ……君も、そうなの?」

 嘲るような言葉。

 絹だけではなく――ボスも。
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