ワケあり!
「うちの息子どものお気に入りが、お前の娘とはなー」

 ようやく終わった説教に、応接室を出るなり、チョウはボスの横を歩きながら、話しかける。

 将と絹は、少し先へ歩き出していて。

 彼女は、首筋のぞくぞくが止まらなかった。

 確かにチョウは、彼女の顔に驚いてはいたが、それよりもボスを懐かしむ様子を見せてくれたのだ。

「娘…というか」

 ボスは、言葉を濁した。

 表現しづらいのだろう。

「私…先生に拾われたんです」

 だから、絹はくるっと振り返って、チョウに言った。

 将も聞いているが、どうでもよかった。

 見ず知らずの娘を拾って育てている――優しい人。

 そうチョウの意識に、植え付けられればよかったのだ。

「絹さん」

 将が慌てて、キョロキョロする。

 誰かが聞いていないか、心配だったのか。

 しかし、いまの彼女は上機嫌で、たとえそれを広められたとしても、痛くもかゆくもなかった。

 どうせ広井ブラザーズとしか、親しくする気はないのだから。

「あ、そう…だったのか」

 チョウは、絹とボスの両方の顔を見比べながら、複雑な表情をした。

 その複雑な顔のまま。

 チョウは、隣に耳打ちするように手で口に覆いを作った。

「まさか…顔が似てたから拾ったんじゃないよ、な…」

 しかし、絹の耳には、しっかりと届いている。

 彼の脳裏には、妻がちらついてしょうがないのだろう。

 久しぶりに再会した旧友が、桜そっくりの養い子を連れているのだから、勘ぐってもしょうがない。

 ボスは。

 立ち尽くしたように――止まった。

 ボス!

 絹は、踵を返して彼に駆け寄っていた。

 分かっている、こんな偶然はない。

 桜そっくりの顔の女の子を、知らずに偶然拾うはずなどないのだ。

 この場合は、人工的に作ったのだが。

 ボスは、その不自然を否定できずに、止まってしまったのである。

「そうです…先生は、私がこの顔だったから拾ってくれたんです。でも、私は幸せだからいいんです」

 絹は、よろけそうなボスを支え、チョウにきっぱりと言ったのだった。

 どんな虚像でも、演じきると決めたのだから――
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