ワケあり!
「うわぁ」

 丘の上。

 絹は、車から降りて、まず夜空を見上げた。

 ずしんと――自分にのしかかるような、星空だったのだ。

 さすがに、観測会に選ばれる場所だけのことはある。

「すっごいでしょー」

 自分の手柄のように、了が笑った。

「いいから、さっさと下ろせよ、チビすけ」

 そんな末っ子は、京に頭を小突かれて、慌ててトランクの方へと回っていく。

 何が出てくるのだろう。

 見ていると。

「よっと」

 そこから出てきて、組み立てられ始められたのは――天体望遠鏡だった。

 あら、ほんかくてき~。

 絹は、彼らの準備のよさを、ただ見ているしか出来なかった。

 しかも、3人ともマイ・天体望遠鏡持ちだ。

 1つを3人で分け合うような、清貧さはない。

 さすが、お金持ち――時々、忘れそうになるが。

「絹さんは、これ使って」

 将は、組み立てた望遠鏡を彼女に差し出す。

「え…でもそれは、将くんのじゃ」

 自分に差し出されるとは思わず、絹は戸惑った。

「ああ、大丈夫…それ、親父から借りてきた奴だから」

 オレのはちゃんとある、と。

 将は、車からもう1つ取り出して、また組み立て始めたのだ。

 チョウの。

 運転手の照らす懐中電灯だけでは、そんな年季物かどうかは分からない。

 しかし、もっとはっきり見ているボスには、見覚えのあるものなのだろう。

 カメラがよく映すように、絹は望遠鏡の前に立った。

「ありがとう…使ったことはないけど、大丈夫かな」

 ボスも、きっと持っていたのだろう。

 この望遠鏡と並んでいたのだ。

「大丈夫……僕が教えてあげるー」

 自分の分の準備ができた了が、絹の腕を取る。

「おい、了」

 ひとつ余計に準備しなければならない将から、弟は彼女を連れ去ってしまおうとするのだ。

「解説がいるなら…してやろうか?」

 反対隣にいた京が、珍しく自分から話を振ってきた。

 ふむ。

「ありがとう、京さん…じゃあ、ご迷惑でない範囲でお願いします」

 久しぶりに、京とコミュニケーションを取るのもいいか。
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