ワケあり!
 右に京、左に了。

 出遅れた将は、絹の少し後ろに陣取ることになった。

「オレが組み立てたのに…」

 将が、不満そうに呟いたのが、最後の抵抗だった。

「初夏の星座は、最初に北斗七星を確認する」

 あちこちから聞こえる部員の声に紛れながら、京が見つけやすいヒシャクの星座を指す。

「その一番最後の星から、右下に曲線を描くように大きな星が並んでいるだろ?」

 暗がりでゆっくりと、京の左手が絹の前で曲線を描く。

 その線の途中にある、うしかい座とおとめ座の大きな星を教えられる。

「春の大曲線って言うんだよ」

 了が口をはさむ。

 視界に入りきれない、パノラマな星空に、絹は仕事を忘れないように気をつけるのが大変だった。

 気づくと、引き込まれてしまうのだ。

 チョウの好きな、おおかみ座を習う。

 別に、彼女から切り出したわけではない。

 了が、「パパっておおかみ座が好きなんだよね…地味なのに」と、話を振ったのだ。

「親父は、ケンタウルス座に追われるんだな…親父といい将といい、狙われるのが好きな奴だ」

 後ろを振り返りながら、京は一人ハブられた弟に声をかける。

「うるさい」

 しかし、それは弟の神経をさかなでただけだったようだ。

 すっかりフテ腐れている。

 あとで、フォローしなければ。

「じゃあ、オレの好きな星座は…ケンタウルスにするかな」

 ふと。

 京が、いいことを思いついたというように、ふっとそれを漏らした。

「えー…パパを追いまわしたいの?」

 了が、異議あり――と、口をはさむ。

 それに、京は笑って。

「さそりはオリオンを夜空で監視しているが、もしも、そのさそりが暴れたら…ケンタウルスが射殺すことになってるんだぜ」

 視線を。

 絹は、頬に感じる。

 京のものだ。

 深い意図はない。

 絹に好意があることを、ほんの少し揶揄してみせたのだ。

「暴れないように…気をつけなきゃ」

 しかし、絹の心臓には、ボスの使命があるため――ドクンとそれが跳ねた。

 射殺されないようにしなければ。
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