ワケあり!
「夜食作ってきました、どうぞ」

 観測中の大きなあかりは、他の部員の邪魔になるので、彼らは一度、離れた車に戻った。

「うわーおいしそ」

 手も拭かずに、了がさっそく巻物に手を伸ばす。

 絹は、ウェットティッシュを出して、彼に手渡した。

「おいしいー」

 口に入れた後に手を拭くのは、手遅れじゃないだろうか。

 しかし、了は無邪気に喜んでいる。

「将くんも、どうぞ」

 今日は、すっかり腐らせてしまったので、機嫌を直してもらわないと。

「ありがとう」

 助手席の京は、見づらいように首をひねっているので、絹は前に差し出した。

「どうぞ」、と。

「こういう時は、バンがいいよねえ…おっきいバスみたいの」

 パパに買ってもらおうか。

 もぐもぐと食べながら、了はこともなげに言う。

「そうだな…いまのままじゃ、父さんが来たくなっても乗れないしな」

 将が、ちらりと運転席を見る。

 そこには、空気のように静かに、運転手が座っていた。

 いざとなれば、父親を運転手にすればギリギリ乗れるか、とか考えているのかもしれない。

「そういえば…絹さんの保護者、親父と同級生で同じ天文部だったんだろ」

 卵焼きを食べながら、将が話を振る。

 ボスの話だ。

 絹は、少し緊張した。

「えっ、そうなの?」

 了が、初耳とばかりに口を挟むし、京も興味深そうに前から視線を投げる。

「そうだよね…?」

 将と絹の、二人の秘密だったのだとばかりに、彼女に確認をしてくる。

 あの、保護者呼び出し事件だ。

 ボスが天文部だったのは、別途チョウから聞いたのだろう。

「はい…そうです」

 にこりと微笑みながら、答える。

 将も、満足そうに笑みを浮かべた。

 これで彼は、兄弟の中で優位に立った気分を味わっているに違いない。

 絹のことを、より自分は知っているのだ、と。

「じゃあさ…その人も一緒に、観測会にくればいいと思うよ…この部、保護者の参加大歓迎だから」

 ますます、バンがいると思わない?

 しかし、了は。

 ボスの存在さえ、広い車を欲しがる口実にしてしまったのだ。
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