ワケあり!
「おつかれー」
「また、来週」

 観測会はお開きとなり、片づけを終えた部員たちが、別れの挨拶を投げながら帰っていく。

 一応、絹の歓迎観測会ということだったので、みんなの前で改めて挨拶はしなければならなかったが、それを除けば、ほぼ放置。

 皆、仲良しと肩を並べて、好き好きに観測しているようだった。

 たまに、部長が見回ってくるくらいだ。

 観測会というのは、広井ブラザーズと親交を深めるには、いいイベントのようだった。

「おつかれさま…眠くない?」

 車に乗り込んで、将が気遣ってくる。

「眠いー」

 しかし、答えたのは絹ではなく――了だった。

 彼はもう、目をこすり始めている。

「お前が眠いのは、いつものことだろ」

 ゆっくり寝るなら、助手席は譲るぞ。

 京がちびっこに話を振る。

「やだ…絹さんに膝を貸してもらうー」

 ちゃっかりしているちびっ子に、絹はくすくすと笑った。

「どうぞ」

 膝くらい貸してあげよう。

 彼女は、自分の膝をぽんと叩いた。

 夜食の空箱は、トランクに入れさせてもらっているので、そこは空いているのだ。

「わーい」

「おい、了」

 兄の制止も聞かず、了は絹の膝に頭を置いた。

「ごめんね、絹さん」

 弟のわがままっぷりに、将が謝ってくる。

「いいの…」

 よしよしと、了の頭に触れると――すぅっ。

 もう、彼は寝息を立てていた。

 すぅすぅ。

 気持ちのいい寝息だ。

 絹はしばらく、それを聞いていたが。

 初めての観測会に、自分でも知らないうちに気を張っていたのだろう。

 気づけば、その寝息に引き込まれていた。

 すぅ。

 将の肩を借りるように、自分が眠ってしまったことを――絹は知らなかった。
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