ワケあり!
「この携帯ね…特定の手順を踏まずに電源を入れると…さっきみたいになるの」

 絹は、ゆっくりと種明かしをした。

 島村の提案だ。

 彼女の持ち物に携帯があれば、万年筆なんかより、そっちに興味を示すだろう、と。

 陰湿な読みは、ビンゴだった。

「し、知らないわよ! 勝手に鳴りだしたのよ! 私たち、何も知らないわ!」

 三人の中で、一番気の強そうな子が、わめきたてる。

「そう…じゃあ、これに指一本触れてない、と言うのね」

 絹は念を押した。

「そ、そうよ!」

 シラを切りとおして、ごまかす気か。

 絹は、ため息をついた。

「前回、万年筆を紛失した時、警察で指紋を採取してもらってます。今回の携帯についたそれも合わせて、指紋照合してもらえば、すぐに分かることですよ」

 絹は、静かに言葉を突き付ける。

「ばっ…何ばかなこと言ってるの! それが私たちじゃないって結果が出たら、絶対あなた訴えるわよ!」

 ヒステリックに裏返る声。

 だから絹は、毅然とその子を見る。

「ええ、それで結構です…では、警察に連絡しますのでお待ちを」

 絹は、自分の携帯の番号に、指をかけた。

「わ、私は関係ないわ! 松島さんが勝手に!」

「ちょ、ちょっと! 私のせいにする気!?」

 あらま。

 あっさり出た裏切りに、絹は苦笑した。

 はったりなのに、可愛らしいこと。

 前回の万年筆など、綺麗に拭き上げてしまっていて、指紋など取ってもいない。

 後ろめたいことをすると、ボロが出やすいものだ。

「そう。じゃ、松島さん以外行ってもよろしくてよ」

 絹は、携帯をしまった。

 通報する気が、なくなったことを見せたのだ。

「ちょっと、私は宮野さんのためにやったのよ!」

 松島と呼ばれた生徒は、もう一人を見る。

 一番おとなしそうな子が、そこでガタガタ震えていた。

 ふぅん。

「私に、何か御用?」

 絹は、静かに彼女に呼び掛けたのだった。
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