ワケあり!
「あなたが、広井くんとベタベタするからでしょ!」

 おとなしい宮野さんとやらは答えず、代わりに松島さんがわめきたてる。

「宮野さんは、中等部の時から広井くんを見ているのに、何でぽっと出てきたあなたが、広井くんと仲良くしてるのよ!」

 予想の範疇の、話の展開だった。

 嫉妬、というわけだ。

「宮野さん…」

 うるさい女は放置して、絹はそっちに話しかけた。

「中等部の時から見てるって言ったわね…見てて、何か変わった?」

 単純すぎる展開に、怒る気もそがれた絹は、穏やかな声を出せた。

「変わらない…そうでしょ? 物語とは違うものね」

 宮野は答えないので、勝手に話を続ける。

「見ているだけで満足なら…こんなことはしないわよね」

 松島がお節介をしたのは事実だろうが、この子もそれを本気で止めなかったのだ。

「だからね…」

 絹は、一回息をついだ。

「欲しいものは、自分で行動を起こして取りに行くことよ…でないと、絶対手に入らないわ」

 と、私に説教する権利はないけど。

 やや自虐的に、絹は笑った。

 彼女は、いまの位置を、自分の力で手に入れたわけではないのだ。

 しかし、絹には欲しいものもない。

 しいていうなら、ボスがこの茶番に飽きても、絹を手駒として使ってくれること。

 欲しいもののある彼女らの方が、よほど人間らしい。

 いっそ、羨ましいくらいだ。

 だから、余計なことと分かっていながら、言ってしまったのである。

「委員長、お待たせ…行きましょうか」

 絹は携帯をロッカーに戻しながら、話を終えることにした。

 一度見つかったから、彼女たちも、もう悪さはしまい。

「あ、松島さん…今度、私のものがなくなったら…分かってますわよね」

 ただし、首謀者だけは釘を刺しておいたが。

 さてさて――少しは化けるとおもしろいけど。

 絹は、宮野をチラ見した後、委員長を促したのだった。
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