ワケあり!
「なんだ、あの小娘は!」

 予想通り、帰った途端怒られた。

 ボスは、ぷんぷんと湯気を出している。

 いや、あの兄弟に、いままで虫がついていなかったのが、逆に不思議だ。

「体育って…もしかして、アレが犯人?」

 部室での情報で、島村が推理を述べる。

 更衣室の件は、彼らは知らないのだ。

「まあ、そのへんです…実行犯じゃありませんけど」

 絹が白状すると、ボスが目をひんむいた。

「だから、下僕にしろと言ったのだ。あの様子では、全然堪えていないではないか」

 まったく、返す言葉もありません。

 絹は、失態にため息をついた。

 おまけに発破までかけたなんて、言えるはずがない。

 まさか、ほんとに行動を起こすとは。

「将くんを、もってかれるんじゃないぞ!」

 絹には、ボスから発破が飛ぶ。

 ん?

「あ、ボス、質問」

 彼の言葉で、ふと疑問が頭をよぎったのだ。

「なんだね、絹くん」

 不機嫌な顔のまま、ボスは返す。

「もし、ですが…私が、三人の誰かに告白されたら…どうします?」

 あの三人に女を近付けるな、と言うのなら、一応絹も女だ。

 ボスにとって彼女は、単なる融通の効くカメラのようなものだろうが、向こうはそうは見ていない。

 釣り針の手応えの感じからは、いつかそういう日がきてもおかしくなかった。

「むむっ」

 ボスは、即答できないようだ。

「いや、まてよ…だが、それでは…うおぅ…」

 一人で頭を抱えて、葛藤しはじめる。

 ボスの脳内も、大変なようだ。

「おまえ…」

 代わりに、平坦な声の島村に呼ばれる。

「兄弟の中の、誰か狙ってるのか?」

 言葉に、絹も頭を抱えた。

「うーん…どうだろう。誰が都合がいいか、とかは考えるかもだけど」

 悩む彼女の言葉に、島村が珍しくー―ふっと笑った。
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