ワケあり!
 ボスも複雑なのだ。

 チョウ含めて三兄弟を、できるなら女のいる世界から、隔離してしまいたいだろう。

 しかし、彼はチョウに嫌われることはイヤだから、そんなことはできない。

 となると、この女性ひしめく世界で、彼らをなんとか魔の手から遠ざけなければならないのだ。

 その役も、絹の存在が担っているはずだった。

 しかし、いかんせん受け持ちの人数が多い。

 うーむ、どうしたら一番ボスにいいのかなあ。

「……ん?」

「…さん?」

「絹!」

「はいっ!」

 いきなり呼び捨てにされ、絹は姿勢を正して返事をしてしまった。

 あれ。

 三兄弟が、自分を見ていた。

 朝の車の中だ。

 そう、学校へ登校中に、彼女はついつい考え込んでしまったのである。

 しかし、いま自分を呼び捨てにしたのは。

「京兄ぃ、絹さんを呼び捨てにするなんて!」

 了が、前の座席をぽかぽか殴る。

「お前も呼び捨てにすりゃいいだろ」

 めんどくさそうに、京は前を向き直った。

「えっえー…ど、どうしよう…呼び捨てなんて……」

 了が、絹を見ながら、赤くなってもじもじしている。

 話の展開が読めない、な。

 彼女は、頭の中で整理をした。

 ぼーっと考え込んでいた絹を、我に返そうとして名前を呼んだらしい。

 京が呼び捨てたものだから、了が絡んで――いまの有様、というわけか。

「あう…き……き……」

 了が、口をぱくぱくしている。

「絹さん…何か、心配事でも? 深刻な顔してたけど」

 弟の努力など無視で、将が親切に聞いてくる。

 あー、あなたたちを、どう転がすか悩んでいるんですよー。

 絹は、心の中で暗く呟いた。

 このまま、後部座席にずぶずぶと沈んでしまいそうだ。

「いえ…だいじょ……」

 彼女が、心の内の悩みをしまって、スマイルを浮かべようとした時。

「きっ、絹……ちゃん…」

 決死の覚悟のような了の声は――墜落したのだった。
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