ワケあり!
 放課後になると、部活の時間だ。

 絹は、憂欝だった。

 ボスに、とにかく宮野を近付けるなと、言われているのだ。

 しかし、三兄弟もいるのだから、あからさまな事も言えない。

「あ、高坂さんも今から?」

 将と教室を出た矢先――きましたよ。

 絶対、出てくるのを待ってただろうタイミングで、宮野が現れたのだ。

 しかも、最初にかならず絹をダシに使う。

「あれ、宮野さんも今から?」

 行き先は一緒なのだから、自然と一緒に歩くことになる。

 うーん、ボス、すみません。

 やる気になった乙女パワーのすごさに、絹は天井を見上げてしまう。

「でも、絹さんに女友達ができてよかったよ…クラスにまだ馴染めてないみたいで、心配してたんだ」

 将のさわやかな言葉に、絹は肩を落とした。

 宮野が狙っているのが自分とは、気付いてもいない。

 鈍いなぁ。

 しかし、言葉通りに思い込まれるのも厄介だ。

「あら、でも宮野さんは…私をそんなに好きじゃないわよね?」

 刺が出ないように、絹は首を傾げながら言った。

「え?」

 怪訝の将。

「そ、そんなことありません! 高坂さんは、綺麗で強くって、私の憧れです!」

 あー。

 絹は、自分が失敗したことを知った。

 相手は、天然素直のお嬢さんだったのだ。

 言葉通りに、絹に対しても、特別な眼差しを見出せた。

 憧れの絹と、好きな将の二人セットに、宮野は素直に絡んできたわけだ。

「絹さん、もてもてだね」

 自分がほめられたようにニコニコする、このさわやか次男坊をどうにかして。

 絹は、頭が痛くなってきた。
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