ワケあり!
「おい、絹」

 しかし、彼女にも味方がいないわけではなかった。

 部室で、プラネタリウムの準備が終わった頃、彼女は京に呼ばれたのだ。

「今日は、こっちで見ろ…あいつに両手に花なんざ、100年早い」

 自分の隣を指定してくる。

 お。

 思わぬ展開だった。

「あ、じゃ、僕もそっちいくー」

 耳ざとく聞き付けた了が、席取りにとんでくる。

 おかげで絹は、珍しく京をはべらすことになった。

「「え?」」

 同じ言葉で戸惑っているのは、将と宮野。

 何故、二人して捨てられたような目をするのか。

 しかし、既に絹の両側はふさがっているので、動かしようがない。

「じゃ、電気消すよ」

 広井家のことに、気付いてもいない部長が、明かりを落とした。

 これでもう、席は確定だ。

 まあ。

 宮野と絡むと、調子が狂うので助かる。

「おい…」

 瞬間――絹は、びくっとなった。

 将とは違う、もっと近すぎるささやきだったのだ。

「あのちまっとしてるのは、どうせ将狙いなんだろ?」

 よっぽど、兄の方が鋭いな。

 囁きに、絹は感心した。

「さあ、よくわかりません」

 しかし、すっとぼけるしかない。

 認めると、それについてコメントしなければならなくなる。

 京にそれを言うと、バランスが崩れそうな気がした。

 まだボスは、その後にどうするか、決めていないのだから。

「ねぇねぇ、見てあの将兄ぃの顔」

 反対側から、了がくすくす笑う。

 絹は、残念ながらそこまで夜目が効かないので、了の言う表情は見えない。

 宮野と、よろしくやっているのだろうか。

「まさに…茫然自失、だな」

 京のニヤついた声の是非は、帰り着くまで分からなかった。
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