ワケあり!
「はいっ、これが初期の呆然顔! そして、後半のブルー顔だ!」

 二枚の写真パネルが、絹の前に取り出される。

 ボスは、とても上機嫌だった。

 あらら。

 次男坊の、欝そうな顔も珍しい。

 ボス曰くの、ブルー顔に注目した。

 少し悪っぽくも見える。

 好青年の意外な表情、という感じだ。

「ああっ、チョウの翳りとそっくり…傑作だ」

 パネルは、ボスに奪い取られた。

 そのまま、パネルと熱い抱擁。

 ふむ。

 ああいう顔をしているうちは、宮野の存在も、そう心配しなくてもいいかもしれない。

 その宮野絡みで。

「また来週、歓迎観測会ですよ…」

 梅雨間近になってきている。

 来週を逃せば、次はもう梅雨明けになるだろう。

 まあ、その日に雨が降れば、必然的に順延なのだが。

「ああ、チョウは来るだろうか」

 うろうろ。

 パネルを抱えたまま、ボスはうろうろしはじめた。

 うーん。

 あの親父が絡むと、途端にボスは乙女になってしまう。

「直接、電話して誘ったらどうですか?」

 息子と旧友に呼ばれたら、チョウだって時間をやりくりするかもしれないのに。

「電話! そうか、電話か!」

 ボスは、さっと懐から携帯を取り出す。

「いや…しかし…あぁ」

 だが、またしても携帯を握り締めて、乙女に転落するのだ。

「忙しいでしょうから、もう少し遅い時間がいいかもしれませんね」

 無駄に悩ませるのもかわいそうなので、絹は早めに助言した。

「そ、そうだな! 大人らしい時間に電話しよう」

 問題を先送りできて、ほっとした顔のボス。

 本当に電話できるか――あやしいなあ。

 絹は苦笑しながら、そんな事を思っていた。
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