ワケあり!
 結局、ボスが電話できたのは、観測会がある週になってから、だった。

『ああ、ちょうど行こうと思ってたところだ』

 という答えが返ってきたらしく、しばらくボスは手がつけられない舞い上がりっぷりだったのだ。

 気象庁から気象衛星までハッキングして、念入りに天候を調べたり、自分用の天体望遠鏡を作り始めたり。

 やることが、とことん徹底している。

「高校の時の望遠鏡は、もうないんですか?」

 絹の素朴な疑問に、ボスの表情が曇った。

「…粉々にして…捨てた」

 あー。

 悪いことを聞いたようだ。

 ボスは恋に破れ、世界を滅ぼす勢いで、マッドサイエンティストになった人である。

 やさぐれピーク時に、思い出の天体望遠鏡を、大事にできるはずがなかった。

「あ、そうそう」

 絹は、さっと話題を変えた。

「息子情報では、チョウさんがみんな乗れるように、ワゴンを買ったらしいですよ」

 金持ちの思い切りのよさが、今回はうれしい。

 行き帰りにボスたちが、ゆっくり話す時間が作れるのだ。

「い、いつそんなことを!?」

 その会話を聞いた覚えがないだろうボスが、慌てふためいている。

 絹は、笑いながら自分の携帯を出した。

「はい、了くんからです」

 見せたのは、メール画面。

 絵文字たっぷりの、末っ子からの報告だ。

「し、島村!」

 メールを見た直後、彼は助手を呼んでいた。

「はい」

 すぐに現れる。

「絹にくるメールは、自動的に私のPCへも来るようにしてくれ」

 どうやら、絹だけがメールを見ているのが、気に入らなかったらしい。

「ついでに、通話の音声も拾えるようにしときます」

 島村は有能なので、ボスの希望を軽く上回る変更策を口にしたのだった。
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