ワケあり!
 ボスの一念が通じたのか――無事、観測会は晴れ渡った。

 学校から帰ってきた絹は、前回より多く夜食を作り始めた。

 今回は、ボスとチョウも一緒なのである。

 ということは。

「島村さん…留守番ですね」

 いちいち、彼が夕食を作らなくていいように、絹は一人分小分けしてラップをかけた。

「ああ、だからカメラは置いてってもいいぞ」

 島村の発言に、絹は動きを止めた。

 ボスも一緒なら、確かに必要ないかもしれない、と。

 絹は胸ポケットから、それを取り出そうとした。

「いや、つけておきなさい」

 しかし、ボスは止める。

「私はチョウの相手が忙しいから、ほかをゆっくり見ることはできないだろう」

 帰ってきて録画を見る、と切に言うのだ。

「はーい」

 絹は、素直にカメラをセットしたままにした。

「島村…人工衛星は撃ち落とせそうか?」

 彼女の胸ポケットを確認した後、ボスは助手に向かってにこやかに言った――怖いことを。

「少し、位置的に難しそうですが、一基います…落としてみますか?」

「できれば、流星群にしたいからなあ」

「うーむ…期待にお応えしたいのですが、流れ星に見えるほど大きい人工衛星を複数、となると、難しいですね」

 まってまって。

 絹は、二人の会話に乾いた笑いを浮かべた。

 相変わらず、物騒な相談をしている。

「明日、衛星落下がニュースになったら、みんな驚くんじゃないですか?」

 彼女は、やんわりと止めてみた。

 本気でやると言われたら、絹に止めようはないのだが。

「まあ、一基、当たって落ちただけでは、美しくないな…また別の機会にしよう」

「申し訳ありません」

 ボスと島村は、絹の制止に関係なく、中止することにしたようだった。

 さすがに、専門的かつ科学的アンモラルには、絹の入る余地がない。

「あ、その代わり」

 島村が、ボスに言った。

「その代わり…最高の夜空を、先生に贈りますよ」

 彼は、意味深な言葉を吐いた。
< 76 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop