ワケあり!
 一勝――そして、一敗。

 迎えに来たワゴンが到着した時の、絹の気持ちだ。

 一勝は、勿論チョウがいること。

 運転手も別にきているので、ボスと語らう準備は万端だ。

 一敗は。

「高坂さん…今日はよろしくお願いします」

 既に、車に宮野が乗っていたこと。

 ボスと二人、それに一瞬動きを止めてしまった。

「彼女、観測会は初めてだろ? いろいろ聞かれたんで、説明するより一緒に連れていこうと思って」

 車も広くなったしね。

 将は、二人の気持ちも知らないで、いいことをした気分になっている。

 あのブルーな顔は、どこへ行ってしまったのか。

 広すぎるワゴンも、これでは考え物だ。

「絹さーん、こっちこっち」

 了が、自分の隣の座席をぽんぽんと叩く。

「よろしく」

 絹は、軽く宮野に会釈だけして、呼んだ了の隣へと乗り込んだ。

 宮野がいる限り、変に将の方に割り込むのも、わざとらしく感じる。

「年寄りは、年寄り同士の方がいいだろ…巧はこっちこいよ」

 チョウが、前方の座席へボスを呼ぶ。

 いまきっと、ボスの心の中では、天使が笛を吹きながら飛んでいることだろう。

 この一瞬だけは、彼は宮野の存在さえ忘れたはずだ。

「あ、ああ…」

 足取りがフワフワしているようなので、絹は心配で見送ってしまった。

 が、無事に席までたどりついて、ほっとする。

 若者組の後部座席は、椅子を横向きに設置してあり、広い空間になっている。

 電車の座席を彷彿とさせる。

 運転席、助手席、その後ろにボスとチョウが並ぶ2席。

 後部には、3×3で座れそうだから、合計10人乗りか。

 なかなか、奮発したようだ。

 絹が了の隣に座ると、向かいの席に将と宮野がいる計算になる。

 助手席にいた京が、ゆっくりと後ろへと回ってきた。

「よっと」

 彼は、絹の反対側の隣へと収まる。

 一瞬。

 将と京の間で、火花でも散ったかと錯覚した。

「やっぱり京兄ぃも、一人じゃ寂しいんだ」

 ぷぷぷ。

 ちょっとズレてる了が笑ったが――笑っているのは、末っ子だけだった。
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