ワケあり!
 大停電が復旧したのは、それから30分後。

 それまで、みなこの滅多にない星空を、存分に味わったのだ。

「僕もう、おなかいっぱい」

 下界に戻ったあかりを見ながら、了がおなかをなでている。

「それを言うなら、胸がいっぱいだろ」

 将のつっこみを聞きながら、絹は思い出したことがあった。

「あ、お夜食、作ってきたんです…そろそろいかがですか?」

 しかし。

 思い出したのは、宮野も同じだったようだ。

 そうだよ、気配り姫がいたよ。

 絹は、がっくりした。

「お前も、作ってきてんだろ?」

 京に助け船を出されて、気力を少し取り戻す。

「そうね」

 遠慮したってしょうがない。

 絹は、宮野に使わなかったペンライトを返した後、立ち上がった。

「みんなで、車で食べましょうか」

 どうにもここは暗くて、絹はうまく動けない。

 夜目の効く、広井兄弟が羨ましいほどだ。

 変な表情をすると、見咎められる可能性もあるので、逆に気をつけなければならないだろうが。

 自分の脱いだ靴の傍で、絹はあわあわしてしまった。

 暗がりで靴をはくのが、こんなに大変だとは思わなかったのだ。

 座ってはけばよかったものの、つい目算で足を靴に入れようとして。

「あ…」

 よろっ。

「絹さんっ!」

 がっし。

 近くにいた将が、彼女の身体をとっさに支えてくれたおかげで、ひっくり返るなんて醜態をさらさずにすんだ。

「あ、ありがと」

 どうにもやっぱり、お嬢様稼業が付け焼刃で、ボロがちらほら出てしまう。

 宮野なら、きっとこんなことは――

「きゃっ」

「あわわっ、危ない!」

 暗がりで、宮野と了の声が交錯する。

 ドッスン!

 何か――誰か倒れたようだった。

 前言撤回。

 本家のお嬢様も、しっかり転ぶようだった。
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