ワケあり!
「ごめんね、宮野さん…上手に支えられなくて」

 車に戻った了は、とても不満そうな顔をしていた。

 将のように、上手に彼女のよろけを、助けたかったのだろう。

「う、ううん…大丈夫、気にしないで」

 持ってきた夜食を広げながら、宮野は恥ずかしそうに微笑んでいる。

 自分も、ハタから見たらあんな風なのだろうか。

 我ながら、よくやるなあ。

 まとった猫の大きさに、絹はにっこり微笑んでみた。

 猫の微笑みだ。

 猫は、とても元気そうだった。

 さて。

 絹も、持ってきた夜食を取り出す。

 まずは、と。

 前部座席の、チョウとボスへの差し入れだ。

 一緒にするより、二人分を別にしておけば、邪魔しないで済む気がしたのである。

「はい、どうぞ」

 絹は、年長者二人に、夜食とお茶を振舞った。

「おぉ、おいしそうだ…私たちの分まで、ありがとう」

 チョウがにこやかに、夜食を受け取る。

 気を利かせて、大きな折り詰めひとつだ。

 二人で箸でつつきあえ、というサインである。

 だが。

「うん、うまい」

 チョウは、絹の予想の上をいった。

 箸には目もくれず、手づかみで巻き寿司をつかんでかぶりついたのだ。

「すまないな」

 そんなチョウから、目を一瞬も離すことなく、ボスが声だけで彼女をねぎらった。

「いえ……では」

 絹は、これ以上邪魔しないように、後方の席へと戻る。

 若者たちには、既に宮野の夜食が振舞われていた。

 出遅れたのはしょうがない。

 ボスたちの給仕の方が、最優先だったのだから。

「絹さんのも、見せて見せて」

 エビフライを片手に、了がせかす。

「はいはい」

 絹は、持参した折り詰めを開けた。

「僕、絹さんのお寿司好きー」

 こっちの末っ子も――手づかみだった。

 ウェットティッシュ…ああもういいか。

 絹は、苦笑しながらその光景を見守ったのだった。
< 86 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop