ワケあり!
「兄貴ね、本当は工業高校に行きたがってたんだ」

 休み時間、将がそう教えてくれた。

「父さんの会社の仕事に、一番興味持ってるのも、兄貴さ」

 将は、ちらりと窓の外を見る。

 しとしとと、雨が降っていた。

 だから、京はボスの能力に興味があるのだ。

 困ったことだが、その情熱は認められる。

 自然に社長の椅子が、転がり込んでくると、あぐらをかいているボンクラ跡取りよりは、百万倍マシだった。

「将くんは、なりたいものないの?」

 一方、将は次男坊。

 親の会社なら、いいポストにはつけるだろう。

 しかし、彼はそれを望んでいるのか。

「パイロット…に、なりたかったのは、子供の頃、だな。いまは、どうなんだろう。親父の会社の、おもちゃ部門がおもしろそうかな」

 曖昧な思考を拾い集め、将は散漫に言葉にした。

「電気会社って、おもちゃも作ってるんだ」

 絹は、ふふっと笑った。

「うん、ふつうのおもちゃ会社に動力部だけ納品するのもあるし、うちが独自で開発してるのもあるよ。ゲームとかは、了の方が詳しいけどね」

 三人三様。

 それぞれ、得意分野が違うようだ。

「絹さんは、将来なにかなりたいもの、あるの?」

 雨音が微かに聞こえる中、将は笑みを浮かべながら聞いてくる。

 すっと、胸にしけった空気が滑り込んできた。

 キモチワルイ。

「まだ…何も考えてないわ」

 アア、キモチワルイ。
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