ワケあり!
「何故、あそこで将くんを見ないんだ! いや、その前に京くんを私に何故、紹介しない!」

 帰宅した絹を待っていたのは、外の天気よりも陰欝なボスのお叱りだった。

「先生、長男の方は…」

 京の件については、島村が応援してくれるようだ。

「ええい、うるさい…技術など、いくらでもくれてやるわ」

 しかし、自分の価値をさっぱり理解していないボスは、ただただ駄々をこねる。

 あの一家が絡むと、冷静さは銀河の彼方だ。

「変な組織に目をつけられると、広井一家の観察どころじゃすまなくなりますよ…逆に、彼らにも何か被害が及ぶかもしれません」

 島村は、根気よくボスに訴えた。

 さすがに、広井一家を巻き込むと聞かされて、少し冷静になったように見える。

「もし…彼らに何かあったら…楽に死ねると思うなよ」

 仮想の敵に向かって、ボスは真っ黒いオーラで呟く。

「いまのままなら、大丈夫ですから」

 絹は、そのオーラに触れながら、彼をなだめた。

 自分も黒いせいか、すんなりと受け入れられる。

 いっそ、同種のオーラであることは、安心感を覚えるほどだ。

 絹には、この悪魔がいる、と。

 将のように、きれいな目で未来を語ることはできないが、暗い道でも一人で歩いているわけではないのだ。

「安全な技術だけ、選んで流すというのは構わないですがね…ただし、父親の方に、ですよ」

 余りダメダメ言うと、ボスが怪しい方に走ると思っているのだろうか。

 島村は、少し穏やかな表現になった。

「チョウに?」

 少し呆然と、ボスは呟く。

「電気屋が、喉から手を出して欲しがる技術なら、腐るほどありますよ…会社も潤う、先生も感謝される」

 島村の言葉に、ボスはみるみる目を輝かせ始めた。

「よし、いますぐ選別始めるぞ!」

 絹も一緒に、地下研究所まで運ばれる。

 彼女は、はしゃぐボスの向こうの島村を見た。

「商売っ気のあることは、キライなんじゃ?」

「ボスを、自分を哀れむような目で見るのは、その辺にしとけ」

 結構――鋭いじゃん。

 絹は、言い返せなかった。
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