ワケあり!
「チ、チ、チ、チョウが…チョウが…家に遊びにこいと!」

 電話を切ったボスが、身体も言葉も転びそうになっている。

 役に立ちそうな発明品を、いくつか見せたい、と連絡したのだ。

「週末にチョウの家にー」

 くるくる回るボスに、絹は微笑んだ。

 持っていくものは、すべて技術を提供するつもりだから、京も満足するだろう。

「カメラで記録したいでしょうから、一緒に連れていったらどうです?」

 島村が、絹を指差す。

 ボスは、即座に彼女を見た。

「そ、そうだな、私もチョウの相手で忙しいからな」

 どうやら、彼女も同伴することが決まったようだ。

 週末に、ボスと出かけるのか。

 変な気分だ。

 ただこの間、島村に痛い一言を言われていたので、彼を見た。

 絹の中の暗い感情。

 それを好ましく思ってなさそうな彼は、しかしボス第一主義。

 絹が同行することが、利益があると思われたのか。

「絶対に、技術供与に先生の名前を出させるなよ。金もだめだ」

 島村が、ボスに聞こえないように、耳うちしてきた。

 絹は、お目付け役ということか。

 確かにボスでは、チョウの言いなりになりかねない。

 その時に、ボスに怒られようが止めろ、と。

 本当に、ボスには百害あって一利なし、の仕事だ。

「企業の金の流れから、産業スパイが先生の存在に感づくと面倒だからな」

 自宅に招待でよかったと、島村は本気で警戒をしている。

 これが会社なら、もっと警戒が必要だったろうから、と。

「そんなに心配なら、島村さんもくれば?」

 絹は、素直にそう思ったのだ。

 しかし。

「ああいう手合いが出てくるなら、オレは逆に顔を出さない方がいい」

 ああいう手合い?

 島村が、何を指して言っているのか、絹には分からなかった。
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