ワケあり!
「よぉ」

 部屋に案内されると――京がいた。

「京…お前は呼んでないぞ」

 チョウは、眉間を押さえる。

 兄弟三人とも、朝から絡んでくるとは思わなかったのだろう。

 しかし、京はすっと姿勢を正すと、チョウを無視してボスへと近づいたのだ。

「先日は、先生の天体望遠鏡を分解しようとして、失礼しました。是非、今日はオレも同席させてください」

 そして、あいさつのつもりか、右手を出すのだ。

 落ちたわ。

 絹は、遠い目をした。

「勿論だよ、いくらでも見ていきたまえ!」

 落ちたのは――ボス。

 京の手をしっかと握り返し、彼の同席に許可印を押したのだ。

 父親に許可を取らないで、ボスを落とす策士だった。

 まあ。

 チョウは警戒しているようだが、今日のは息子に分解されてもいいものばかりだ。

 絹も口を挟まないで、その光景を見守った。

「すまんな、巧。わざわざ、オレに気を遣ってもらって」

 絹のアシストで、荷物の中から、装置を出しているボスに、チョウは苦い響きを込めた。

 何の見返りもいらないと、ボスが言ったせいだろうか。

「私には、研究を金に変える能力はない…いや、いらないんだ。ただ、私が作ったものを、お前がどう生まれ変わらせてくれるか…それが、見てみたい」

 それが、二人の愛の結晶さっ!

 絹は、ボスの本音をアテレコしていた。

 京は説明をはじめるより先に、出された品を手に取って、食い入るように見ている。

「それはね…」

 絹は、ボスの手伝いができるように、一通り島村にたたき込まれてきていた。

「それは、発電機よ…人間の体温を電力に変えられるの」

 うちのマッドサイエンティストたちのいう、安全な、とはこのレベルだ。

 しかし、使用分野を一歩間違えれば、確実に軍用クラス。

「人間の体温から電気を?」

「夏なら、外気温でもできるそうよ」

 島村の受け売りだ。

 京は、唖然と自分の手の中の製品を見つめていた。
< 95 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop