私と貴方と紫煙と単車
暫く時の流れが止まっていたように思えた。
二人は、唇を離した。
「櫻…」
「魅柘姫…先輩」
キスの後、顔が火照りとろんとした櫻の顔は、魔性の力があるように思えた。
「さてと、そろそろ帰るか♪」
そう言うと、魅柘姫は、櫻の頭を優しくポンポンと叩いてニッコリと笑った。
この日、初めて見た魅柘姫の笑顔だった。
櫻にとって、海に沈む夕日よりも、眩しく思える笑顔だった。
「はいっ!先輩♪」
「おいおい…いつまでも先輩はないだろ?なんか他の呼び方にしてくれ」
「ん〜そうですねぇ……それじゃ魅柘姫さんってのはどうです?」
「まぁ〜なんでもいいけどよ♪んじゃ捕まってろよ」
暫く走り、やっと街が見えてきた。
「おい、櫻?」
「なんですかぁ?」
「この後どうする、櫻ん家に送ればいいか?それとも他に寄るとこあるか?」
「んとー今日わぁ両親が夜勤で明日の昼にしか帰って来ないので、ウチに来ますか?」
「ん〜櫻ん家かぁ♪よし!行くか!」
櫻の案内で、家に着くと、9時を回ったとこだった。
「ただいまぁ〜」
「おかえりですぅー」
家の奥から、元気な声が聞こえてきた。
「えっ!?誰か居るのか?櫻…?」
「あぁ!妹ですよ♪心配ないです」
「お姉ちゃんお帰りですわぉ!!お姉ちゃん彼氏ですか?ってこの人、魅柘姫さんじゃないですかぁ!!悪戯とか、変な事されませんでしたかっ?!」
「オレは、そこまで悪者なのか?ってかなんで名前知ってんだよ?!」
「十分悪者ですからね♪まぁそれれだけ悪名高いって事じゃないんですか?」
「おいおい…櫻までぇ〜!?」
年頃の女子二人相手じゃ天下無敵のヤンキーもたじたじである。
こうして、時間の許す限り、3人で楽しく過ごした。
「そろそろオレ帰るかな〜」
「そっか…残念です」
「じゃ〜な!妹さん」
「あんたは、家に居なさい!」
「櫻、また明日な…」
「はいっ!」
二人は、二度目のキスをした。
前回より、長く。
帰り際に櫻の頭を撫でてやった。
爆音と共に都会の雑踏に消えていった。
< 8 / 24 >

この作品をシェア

pagetop