踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
報告
「やはり目撃者は無かったか」
昨夜の小島の行動の報告を聞いて係長の太田昌義は溜息をついた。口の中で棒付きのキャンデーを弄んでいる。二年前に煙草をやめてから始まった彼の癖である。また、彼に言わせれば食事が美味しくなったということだった。そのせいか、彼は日を追うごとに体重を増やしているようだ。
こうなってしまうくらいなら、煙草はやめないな、小島は太田の姿を見るといつも思っていた。
「死亡推定時刻に現場辺りを歩いている人が数人いるのですが、何も見ていないということです」
小島の背後から恵が言った。
「どういうことなんだ?」
太田が恵の方を見る。
「本当に見ていないのか、口裏を合わせているのか、判りません」
「けれども彼らには何の共通点もありませんし、口裏を合わせる意味もありません」
小島が応える。
「ならば、関わり合いたくない、ということか?」
太田が付近の聞き取りをしていた刑事に視線を投げる。
「ええ、夜になるとあの辺りには数人の不良グループが集まっているようですからね」
視線を受けた刑事が答えた。
「その不良グループの聞き取りは済んでいるのか?」
「いえ、まだですが。生活安全化の協力をもらって早い内に確認する予定です」
「どのくらいかかる?」
「二、三日でしょう」
「よし、そっちは任せた」
太田に指示された刑事は直ぐさま駆けだしていく。
「首を絞めて木に吊り下げているのですから、相当な時間が掛かっているはずです、誰かが見ていても可笑しくない」
太田が昨晩の小島の言葉をなぞるようにいった。両手で後頭部を支え、椅子に体を預けた。
昨夜の小島の行動の報告を聞いて係長の太田昌義は溜息をついた。口の中で棒付きのキャンデーを弄んでいる。二年前に煙草をやめてから始まった彼の癖である。また、彼に言わせれば食事が美味しくなったということだった。そのせいか、彼は日を追うごとに体重を増やしているようだ。
こうなってしまうくらいなら、煙草はやめないな、小島は太田の姿を見るといつも思っていた。
「死亡推定時刻に現場辺りを歩いている人が数人いるのですが、何も見ていないということです」
小島の背後から恵が言った。
「どういうことなんだ?」
太田が恵の方を見る。
「本当に見ていないのか、口裏を合わせているのか、判りません」
「けれども彼らには何の共通点もありませんし、口裏を合わせる意味もありません」
小島が応える。
「ならば、関わり合いたくない、ということか?」
太田が付近の聞き取りをしていた刑事に視線を投げる。
「ええ、夜になるとあの辺りには数人の不良グループが集まっているようですからね」
視線を受けた刑事が答えた。
「その不良グループの聞き取りは済んでいるのか?」
「いえ、まだですが。生活安全化の協力をもらって早い内に確認する予定です」
「どのくらいかかる?」
「二、三日でしょう」
「よし、そっちは任せた」
太田に指示された刑事は直ぐさま駆けだしていく。
「首を絞めて木に吊り下げているのですから、相当な時間が掛かっているはずです、誰かが見ていても可笑しくない」
太田が昨晩の小島の言葉をなぞるようにいった。両手で後頭部を支え、椅子に体を預けた。