踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
六時過ぎ、美鈴は佐枝とともに三上挙いうこの家にいた。忌中の文字が掲げられて家の中からはお経が流れてくる。和室の前のサッシ窓が大きく左右に開かれ、奥に祭壇が設けられているのが見える。その前を両親や親類達が座っている。皆、涙を堪えているか、啜り泣いている。
美鈴と佐枝は焼香のために出来た列に並んだ。一人、また一人と鉄は静かに進んでいく。その中には喪服を着たり黒いネクタイや腕章をつけた教師達や制服姿の生徒達が混ざっていた。
この様子を物陰から見ている者達がいた。美しが丘署の刑事達だった。その中には小島や恵の姿もあった。刑事達はこの席上に犯人が紛れ込む可能性に懸けていた。それが叶わなくても、何らかの手がかりを得られないかという期待を持っていた。焼香の列は静かに進んでいく。今、目の前を二人の制服を着た少女達が焼香を終えて列から離れようとしていた。クラスメートだろうか、被害者と同じ制服だった。
美鈴と佐枝は焼香の列から離れた。どこからか啜り泣く声が聞こえてくる。いたたまれなくなって美鈴は佐枝を伴って響子の家を後にしようとした。
その時、激しく強い感情が美鈴の胸を貫いた。『もの』だろうか?美鈴はその場に立ち尽くし周囲を見回した。何かまがまがしい気配を感じたからだった。けれども『もの』の姿はそこにはなかった。ただ、髪が少し解れた四十代くらいの女性が焼香をしようとしていた。
この女性を小島は妙に気に掛かった。隣に立つ恵の肩を一つ叩きその女性を指さした。恵は小島の言わんとすることが判らないまま彼が指さす方を見た。
その女性は恵の目から見ても異様に映った。髪が解れ、気を病みすぎたのか暗い雰囲気が漂っている。頬も痩けているのか実際の年齢よりも老けて見えるようだった。周囲が悲しみに沈んでいるのにその女性は違う雰囲気を出していた。
焼香をする時、その女性は俯いたままにやりと笑ったのだ。
小島はそれを見逃さなかった。
彼は恵に小さな声でその女性を尾行するように指示し、恵はそれに従った。
美鈴と佐枝は焼香のために出来た列に並んだ。一人、また一人と鉄は静かに進んでいく。その中には喪服を着たり黒いネクタイや腕章をつけた教師達や制服姿の生徒達が混ざっていた。
この様子を物陰から見ている者達がいた。美しが丘署の刑事達だった。その中には小島や恵の姿もあった。刑事達はこの席上に犯人が紛れ込む可能性に懸けていた。それが叶わなくても、何らかの手がかりを得られないかという期待を持っていた。焼香の列は静かに進んでいく。今、目の前を二人の制服を着た少女達が焼香を終えて列から離れようとしていた。クラスメートだろうか、被害者と同じ制服だった。
美鈴と佐枝は焼香の列から離れた。どこからか啜り泣く声が聞こえてくる。いたたまれなくなって美鈴は佐枝を伴って響子の家を後にしようとした。
その時、激しく強い感情が美鈴の胸を貫いた。『もの』だろうか?美鈴はその場に立ち尽くし周囲を見回した。何かまがまがしい気配を感じたからだった。けれども『もの』の姿はそこにはなかった。ただ、髪が少し解れた四十代くらいの女性が焼香をしようとしていた。
この女性を小島は妙に気に掛かった。隣に立つ恵の肩を一つ叩きその女性を指さした。恵は小島の言わんとすることが判らないまま彼が指さす方を見た。
その女性は恵の目から見ても異様に映った。髪が解れ、気を病みすぎたのか暗い雰囲気が漂っている。頬も痩けているのか実際の年齢よりも老けて見えるようだった。周囲が悲しみに沈んでいるのにその女性は違う雰囲気を出していた。
焼香をする時、その女性は俯いたままにやりと笑ったのだ。
小島はそれを見逃さなかった。
彼は恵に小さな声でその女性を尾行するように指示し、恵はそれに従った。