踏みにじられた生命～紅い菊の伝説１～

憎悪

　伊本彩花の現場検証が終わった後、小島は
恵から昨夜の報告を受けていた。そしてあの女性が吉田という姓だと言うことに反応して過去の不審死がまとめられているファイルを取り出しあるページを恵に示した。
「小島さん、これは？」
「今年の春に起きた自殺案件だ。亡くなったのは吉田沙保里、美しが丘中学の校舎裏で首を吊った」
「吉田って…」
「この子の母親かもしれん」
　小島と恵はお互いの顔を見合わせた。
　それから暫くして小島と恵は吉田という女性の家の前にいた。
　その家は建てられてから二十年くらい経っているのだろうか、外壁には小さな罅がひびが幾つも走っている。ほんの僅かな庭には芝生が植えられていたが、このところは手入れがされていないのだろう、荒れ果てていた。
　近所のきれいな家々とは対照的だった。
　小島は古めかしい呼び鈴を鳴らした。
　暫くして扉が開き、中から五十歳近くの男性が現れた。
「どちら様で？」
　男は草臥れた中年男と背をまっすぐに伸ばした若い女性というちぐはぐな二人を怪訝そうに見ている。
　小島と恵は警察手帳を示した。
< 35 / 96 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop