踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~

自殺の背景

「なんか、変じゃね?」
 この短い間に二回目の自習となったことに疑問を感じ、啓介は言った。
 騒がしい教室の中、彼らは佐枝の席の周りに集まっていた。
「また何かあったのかな?」
 響子が殺されたことが判った時のことを思い出して、佐枝が啓介、義男、美鈴の方に視線を投げた。
「そうよねぇ、あの日も商都ホームルームなしでいきなり自習になったものね」
 美鈴もその日のことを思い返して言った、 かに所が疑問に思ったことは恐らく教室にいる全員が感じていることだろうと思われた。教室の中は相変わらず騒がしいが、その日の騒がしさとは異なっていた。また何かあったのか、騒がしさ中にはそんな言葉が飛び交っていた。
「あれ、今日は伊本の奴が来ていないな」
 義男が言うとおり空席が一つ増えていた。「まさか今度は伊本の奴に何かあったんじゃないだろうな…」
 義男の言葉を聞いて美鈴は伊本彩花の席の方に目を向けた。
 やはりそこには『もの』がいた。赤黒く邪悪な気配を周囲に振りまいていた。
 だが、響子の時は影のようなものにしか見えなかったが、今度はその時とは違っていた。『もの』の輪郭が鮮明になっていたのだ。後ろで二つに結んだ髪と制服がはっきりと見えていた。ただ顔だけはよく見えなかった。美鈴はそれを見ようと精神を集中させていった。 けれどもその顔は見えなかった。
 不安だけが残った。
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