踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
美しが丘署に戻った小島と恵は吉田沙保里のじ自殺に携わった刑事の元に行った。同じ時期、小島達は別の事件に関わっており、彼らはこの件を詳しく知らなかったのだ。
小島はこの自殺に関する資料をその刑事の机に拡げた。
「一寸この件について聞きたいんだけど?」 刑事はその資料に目をやると小島達を見上げた。
「今頃なんだい?この件は自殺で片がついてるぜ」
その刑事は明らかに困惑した表情をした。「この資料を見ると現場には遺書がなかったようですが、何をもって自殺と判断されたのですか?」
恵が資料のその部分を指さした。
「ああ、それは現場に他の人間がいた形跡もなかったし、彼女の家から自殺を思わせる日記が出てきたからなんだ」
やはり日記だったのか、二人は自分達の疑念が正しかったことを確かめた。
「その日記の中に今回の被害者、三上響子と伊本彩花達の名前があっただろう?彼女達二は事情は訊かなかったのか」
「勿論訊いたさ。けれども彼女達は何も知らないと言うんだ。日記の中には彼女達の虐めのことも書かれているがそんなことは身に覚えがないと言うんだ」
「学校側はどう言っていた?」
「担任に話を訊いたんだが虐めはなかったと答えていたな、でも俺は虐めはあったと思っている。あの日記に書かれていた内容は全て事実だと確信している。だから自殺だと判断した」
小島はその刑事の言葉を一言も逃さないように聞きながら何かを考えgていた。暫くして小島は「そうか、有り難う」と刑事に言って恵を携えて自分の席に戻っていった。
使い古された椅子に体を預けると恵の方を向いて呟いた。
「嬢ちゃん、このヤマはまだ続くぞ。これは吉田沙保里の死に対する復習だ」
小島は確信を持って言った。
その声にはこの事件を続けさせないという決意が表れていた。
その日の午後、加藤拓也は釈放された、三上響子と伊本彩花はその手口が同じ為、同一犯と判断されたが、彼には二度目の殺人に対して鉄壁のアリバイを与えられたからだった。 彩花が殺された時、彼は美しが丘署の拘置所の中にいたからだった。
警察署から出る時、彼を連行してきた刑事が「済まなかったな」と声をかけた。けれども加瀬はその刑事を睨みつけて美しが丘署を去っていった。