踏みにじられた生命～紅い菊の伝説１～
　　空が高い。
　微かに吹く風が心地よく頬を撫でていく。　こんな天気の日には美鈴はよく屋上に来てぼんやりと時を過ごすことが多い。
　高台の上に建つ四階建ての校舎の屋上はこの地域では高い位置にあり周囲を遮る建物がない。こういう晴れた日には都会の高層ビル群を臨むことが出来る。
　美鈴は心が解放されて自由になった気分を満喫できる。彼女がここに来る理由だ。
　佐枝の姿はここにはない。
　彼女はこの時間、義男とともに過ごすことが多いようだ。
　啓がこの時間何処にいるのか美鈴は知らない。いつの間にかどこかに消えてしまうのだ。　美鈴達はいつの一緒にいるわけでもない。こうして自由な時間を気ままに過ごすこともあった。
　美鈴はそっと時計を見た。
　ここに来て大分時間を使っていたようだ。そろそろ午後の授業が始まる、彼女は寄りかかっていたフェンスから体を離し校舎に入る扉に向かって歩き出した。
〈助けて…〉
　突然彼女は危機迫る声を聞いて立ち止まった。美鈴は周囲を見渡すが誰もその声に気づいた様子はない。またその声は音として聞こえた様子でもない。
　美鈴の頭の中に直接伝わってきたようだ。〈助けて！〉
　事態が切迫してきたのだろうか、その声は次第に大きくなっていく。この声が自分にしか聞こえないのならば、ｋぉえの主を助けることが出来るのは自分しかいない。声は後者の下の方から伝わってくる。
　少しの間躊躇っていたが、美鈴は声が伝わってくる方向に走り出した。
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