踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
第四章
追跡
恵は手術中と表示されている部屋の前に用意された長椅子に座っていた。今、美鈴の手術が行われている最中だった。
彼女とともに倒れていた明美には既に息が無く警察による現場検証の最中だろう、小島はそちらの方に参加している。
美鈴の手術が始まってから既に一時間近い時間が経過していた。まだ手術中の表示は消えそうにない。階下の外来は患者達で賑やかだったが、二階にあるこの手術室前は空気が凍ってしまったように静かだった。
そんな中で女性物の靴音がこちらに近づいてくる。恵が学校側に確認して連絡をした死鈴の母、美里が走ってくる。
それを見た恵は立ち上がり、美里に向かって深く頭を下げた。
「私達がいたのに、申し訳ありません」
恵は娘を気遣う母親にそう言った。
「それで娘の状態は?」
美里は息を切らせていた。
「はい、傷が急所を外れていたようで、命には別条ないそうです」
恵の声が辺りに吸い込まれていく。
それを聞いた美里の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「刑事さん、ですよね?」
「はい、美しが丘署の結城恵と申します」
「娘の危ないところを、有り難う御座いました」
美里はそう言うと長椅子に腰を下ろす。
恵もそれにならう。
美里はまだ詳しいことは知らなかった。ただ恵から電話で「娘が刺された」とだけ伝えられ、仕事を放り出して駆けつけてきたのだ。 恵はこれまでの経緯を美里に話した。
「それで犯人は?」
「取り逃がしてしまいました。でも私達は娘さんを襲った犯人が、ここ数日間の殺人事件の犯人だと考えています。」
恵は必ず捕まえるという決意をもって美里に言った。
彼女とともに倒れていた明美には既に息が無く警察による現場検証の最中だろう、小島はそちらの方に参加している。
美鈴の手術が始まってから既に一時間近い時間が経過していた。まだ手術中の表示は消えそうにない。階下の外来は患者達で賑やかだったが、二階にあるこの手術室前は空気が凍ってしまったように静かだった。
そんな中で女性物の靴音がこちらに近づいてくる。恵が学校側に確認して連絡をした死鈴の母、美里が走ってくる。
それを見た恵は立ち上がり、美里に向かって深く頭を下げた。
「私達がいたのに、申し訳ありません」
恵は娘を気遣う母親にそう言った。
「それで娘の状態は?」
美里は息を切らせていた。
「はい、傷が急所を外れていたようで、命には別条ないそうです」
恵の声が辺りに吸い込まれていく。
それを聞いた美里の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「刑事さん、ですよね?」
「はい、美しが丘署の結城恵と申します」
「娘の危ないところを、有り難う御座いました」
美里はそう言うと長椅子に腰を下ろす。
恵もそれにならう。
美里はまだ詳しいことは知らなかった。ただ恵から電話で「娘が刺された」とだけ伝えられ、仕事を放り出して駆けつけてきたのだ。 恵はこれまでの経緯を美里に話した。
「それで犯人は?」
「取り逃がしてしまいました。でも私達は娘さんを襲った犯人が、ここ数日間の殺人事件の犯人だと考えています。」
恵は必ず捕まえるという決意をもって美里に言った。