踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
 教室の中はとても授業の出来る状態ではないほど騒然としていた。
 無理もないことだ。昼休みが終わった直後に救急車が学校に来て、それが去った後に複数の警察車両が来たのだから学校内で何か事件があったことは容易に判断できる。
 どこか流れてきたのだろう、一人の女子生徒が殺され、もう一人がナイフで刺されたという噂が学校中に流れていた。
 騒がしさは教室の中だけでは無かった。
 学校の敷地の外で張り込んでいた報道陣の動きも急に活発になっていた。それが噂の拡がりに拍車をかけていた。
 教室内の騒ぎが治まらない要因は他にもあった。次の授業を受け持つ教師がまだ誰も来ていないのだ。美鈴の教室では副担任の吉田恵子の英語が予定されていた。だがその恵子がまだ来ていない。
 更にこのクラスでは鏡美鈴と野川明美の姿が見えなかった。この二人が犠牲者ではないか誰もがそう考えていた。
 この短い間に三人の生徒が殺され,一人の生徒が大きな怪我をしたらしいということは異常なことである。誰の心にも不安があった。「美鈴、何処行っちゃったんだろう?」
 いつもの通り佐枝の席に啓介と義男が集まっていた。
「まさか、噂の通りになっちゃいないよな?」
 義男が同意を求めるように二人の方を見る。「そんなこと、ある訳ないじゃない」
 佐枝が義男を睨みつける。
「けどなぁ、鏡の他に野川も帰って来ていないからなぁ。噂とは数は合うぜ」
 啓介が明美の席の方を指さしてそう言った。
< 56 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop