踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
太田と言い合った後、小島は一人吉田家の前に行った。外から伺ったその家は相変わらず暗く、雑然としていた。それがこの夫妻の悲しみの深さだ、言葉に出来ない悲しみや悔しさ、憎しみの大きさが小島には痛いほど判っていた。娘をあんな形で亡くしてさえいなかったら、この家もこれほど暗くはなっていなかっただろう。小島は理不尽に未来を奪われた娘とその両親の気持ちを思うと胸が痛かった。
けれどもその両親は今、連続殺人事件の容疑者の一人になっていた。彼らがまた、自分と同じ悲しみを振りまいている可能性があった。もしそうならば、彼らを止めなければならない。
復讐は決して心を晴らしてはくれない。同じ様な憎しみを振りまいていくだけなのだ。
人は悲しいけれどもそれを背負って生きていかなければならない。
だから止めなければならない。
どんなに彼等から恨まれたとしても。小島は心の中で強く決意して呼び鈴を鳴らした。
一度、二度、三度、呼び鈴を鳴らしたが、中からは何の反応もない。気配を探ろうとするが感じられない。
〈留守なのか?〉
小島がそう思って立ち去ろうとした時、一台の白い中古の軽自動車が家の前で停まった。
中には吉田夫妻が乗っていた。
よほど家計が厳しいのだろう、その車は十年錠前の型だった。
小島は車に近づき、ルーフに右腕を載せる。
真人が右側のガラスを下ろす。
「お出かけでしたか」
小島は出来るだけ親しげに話しかける。
「ええ、家内の具合が良くなかったので病院まで」
真人が怪訝そうに答える。
隣の席を除きもむと美子が俯いているのが見える。確かに顔色が悪い。真人の側のドアが開く音を立てる。
「これは、気がつきませんで」
小島は塞いでいたところから離れ、真人が降りるのを待った。真人は車を回り込み妻の恵子を降ろした。
彼は妻の体を支えながら小島を見つめた。
けれどもその両親は今、連続殺人事件の容疑者の一人になっていた。彼らがまた、自分と同じ悲しみを振りまいている可能性があった。もしそうならば、彼らを止めなければならない。
復讐は決して心を晴らしてはくれない。同じ様な憎しみを振りまいていくだけなのだ。
人は悲しいけれどもそれを背負って生きていかなければならない。
だから止めなければならない。
どんなに彼等から恨まれたとしても。小島は心の中で強く決意して呼び鈴を鳴らした。
一度、二度、三度、呼び鈴を鳴らしたが、中からは何の反応もない。気配を探ろうとするが感じられない。
〈留守なのか?〉
小島がそう思って立ち去ろうとした時、一台の白い中古の軽自動車が家の前で停まった。
中には吉田夫妻が乗っていた。
よほど家計が厳しいのだろう、その車は十年錠前の型だった。
小島は車に近づき、ルーフに右腕を載せる。
真人が右側のガラスを下ろす。
「お出かけでしたか」
小島は出来るだけ親しげに話しかける。
「ええ、家内の具合が良くなかったので病院まで」
真人が怪訝そうに答える。
隣の席を除きもむと美子が俯いているのが見える。確かに顔色が悪い。真人の側のドアが開く音を立てる。
「これは、気がつきませんで」
小島は塞いでいたところから離れ、真人が降りるのを待った。真人は車を回り込み妻の恵子を降ろした。
彼は妻の体を支えながら小島を見つめた。