踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
「どうですか?お認めになりますか?」
 野本と恵子は観念したように頷いた。
「あなた方がもう少し早く教えて下さっていれば、私達の初動捜査はもう少しましなものになっていましたよ」
 小島は呆れたように溜息をついた。
「しかし、あなたは何処でそれを?」
「三上響子の通夜に吉田沙保里の母親が来ていましてね、彼女から娘さんの日記を見せてもらいました。そこに書かれていました」
 響子の携帯電話を閉じてそれを指さす。
「それにものメッセージでね。動機は怨恨だと判りました」
 もはや小島の言葉は落ち着きを取り戻していた。
「はい、あなたの仰るとおりです」
 恵子が俯いたままで応えた。
「どうして隠したのですか」
「虐めがあったなんてことが判ったら教育委員会の評価が下がる。それに…」
「それに?」
「彼女の父親はこの地域の有力者なんです」
 そんな理由で吉田沙保里は彼等に見捨てられたのか。小島は沙保里を追い詰めたのが、『大人の事情』だったことにやり場のない憤りを感じた。

 放課後、啓介、佐枝、義男の三人は美鈴の病室を訊ねた。
「なんだ、意外に元気そうじゃないか」
 ベッドで起き上がり本を読んでいる美鈴に向かって啓介が言った。
「ほんと、心配して損したわ」
 佐枝が笑っている。
「それで、いつ頃退院できるんだ?」
 佐枝の隣から義男が口を挟んできた。
「順調にいけば明後日だって。医者も驚いていたわ」
 美鈴は笑って応えた。
 確かに美鈴の回復力は目覚ましいものがあった。少し前の時間に傷口の消毒を行ったのだが、それはもう塞がりかけていた。医者が驚くのも無理はない。普通なら傷が塞がるにはもう少し時間がかかる。
 だが、それを見越していた人物がいた。
 その人物は鏡美里だった。

< 69 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop