踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~

誘拐

 窓を閉め切った薄暗い部屋キーボードを叩く音が一定のリズムで聞こえてくる。壁には何人もの少女の盗撮写真が幾つも貼り付けられている。それらはこの部屋の主、加瀬拓也の記念品だった。ここに住んで五年、写真は彼の努力の賜物だった。
 キーボードの音は彼のホームページを更新している音だ。これまで集めてきた写真の中で彼のお気に入りの写真をネット上にアップしているものだ。意外とアクセス数もある。 この時間が彼の一番気に入った時間だ。
 パソコンのスピーカーから今流行のアイドルグループの歌が流れている。デスクの左側には食べかけのカップ麺がまだ湯気を上げている。彼はキーボードから手を離しカップ麺を啜った。
 
 黒い人物の心の中、吉田沙保里と黒い人物の人格が向き合っている。二つの人格は同じ問題を抱えており、それを解決しようとしていた。復讐も折り返しにさしかかってきた時、まさか自分達の邪魔をする存在が現れるとは思わなかったのだ。あいつは犯行中にいつも張っている結界を破り、無効にしてしまった。それだけでも充分驚異になり得る。
 まだ復讐は終わっていない。
 障害は今のうちに取り除いておくべきだ。その方法はどんなものがあるのだろう?二つの人格はそれを検討していた。
 自らの手で排除してしまおうか。でもそれは避けたかった。半ばを過ぎたとはいえ復讐はまだ終わっていない。ここで断念することは出来ない。
 それならば、どうするか…。
 そこである考えが黒い人物に浮かんだ。
 誰か他の人間を使ったらいいのだ。
 それに丁度良い人間がいる。
 二つの人格は微笑んだ。
 冷たく残忍な眼差しで…。
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