踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
 碧眼の子猫は魔鈴と名付けられた。魔鈴はその名前を覚えたのか、呼ばれるとすぐに美鈴のそばに来た。美里が同じように呼んでも、それには従わなかった。美鈴だけに心を許しているようだ。
 魔鈴は常に美鈴の傍にいた。学校の行き帰りの時は適当な距離を保って憑いてくるし、授業中は校庭の片隅で美鈴の様子を伺っていた。
 そんな魔鈴の存在は佐枝と義男には気づかれていなかった。それだけ魔鈴は気配を消していた。
 それでも何故か啓介だけは魔鈴の存在に気づいていた。時々美鈴のアパートに来ては魔鈴とじゃれあっている。
「まったく、なんで魔鈴はあんたなんかに懐くのよ」
 美鈴は魔鈴が啓介に懐くのに不満があるようでよくそう言っていた。
 その言葉を聞くと啓介は必ずこう答えていた。
「さぁね、きっと俺がイケメンだからじゃないか」 
 美鈴はその言葉には呆れてものがいえなかった。

 数日後…
 加瀬拓也は下校する中学生達を物陰からじっと見ていた。目的のあの少女が校門から出てくるのを待っているのだった。
 既に車は指定された場所に停めてある。あとは本人を確保するだけだ。
 加瀬は獲物を狙う獣のように生徒達の動きを追っている。一人、また一人と生徒達は家路についている。誰一人加瀬の視線には気づかない。
 そんな生徒達の中に美鈴と佐枝がいた。
 加瀬は待っていた獲物を見つけて動き出した。
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