踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
一、二分走ったところで何かに躓いたのか不意に佐枝が転んでしまった。
「佐枝!」
隣で走っていた佐枝の姿が視界から消えてしまったので、美鈴は踵を返す。佐枝の傍に駆けついた時、彼女は左足首を掴みながら苦悶の表情を見せていた。
美里は手を差し伸べて佐枝を起き上がようとするが、足を捻ってしまったのか、なかなかうまくいかない。
そうしているうちに追いついてきた加瀬が彼女達の前に立ちはだかった。
それを見て二人は固まってしまった。
息を切らせ、目を血走らせて、加瀬が近づいてくる。
〈もう駄目だ〉
美鈴がそう思った時、物陰から黒い塊が飛び出し、二人の間に割って入った。
魔鈴だった。
「フーッ」
補足鋭い歯を剥き出し、背中の毛を逆立てて、魔鈴は威嚇の体勢をしている。
だが、子猫だということから加瀬は脅えることなく近づいてくる。
魔鈴が加瀬の顔目掛けて跳びかかり爪を立てる。加瀬の悲鳴と佐枝の悲鳴が辺りに響き渡る。
響き渡ったはずだが、近くにいる人々はそれに気づいた様子もなく彼女達の傍を通り過ぎる。
悲鳴が聞こえていないのだ。
それでも佐枝は叫び続ける。
美鈴は野川明美が殺された時のことを思い出す。あの時と同じように彼女達の姿や声は周りの人々には気づかれないのだ。
魔鈴と加瀬の格闘は続いていた。
魔鈴は何度も跳びかかり、爪をたてて加瀬の顔を切りつける。
加瀬は次第に道の脇に追い詰められていく。 魔鈴は更に跳びかかる。それを裂けた加瀬は道ばたに倒れ込む。そのとき、加瀬の右手に冷たい感触の何かが触れる。
鉄パイプだった。
加瀬はすばやくそれを手にすると、跳びかかってきた魔鈴に振り下ろす。魔鈴は短い悲鳴を上げて地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。その隙に加瀬は佐枝から美鈴を引き離す。
そして二人は煙のように佐枝の前から消えてしまった。
「佐枝!」
隣で走っていた佐枝の姿が視界から消えてしまったので、美鈴は踵を返す。佐枝の傍に駆けついた時、彼女は左足首を掴みながら苦悶の表情を見せていた。
美里は手を差し伸べて佐枝を起き上がようとするが、足を捻ってしまったのか、なかなかうまくいかない。
そうしているうちに追いついてきた加瀬が彼女達の前に立ちはだかった。
それを見て二人は固まってしまった。
息を切らせ、目を血走らせて、加瀬が近づいてくる。
〈もう駄目だ〉
美鈴がそう思った時、物陰から黒い塊が飛び出し、二人の間に割って入った。
魔鈴だった。
「フーッ」
補足鋭い歯を剥き出し、背中の毛を逆立てて、魔鈴は威嚇の体勢をしている。
だが、子猫だということから加瀬は脅えることなく近づいてくる。
魔鈴が加瀬の顔目掛けて跳びかかり爪を立てる。加瀬の悲鳴と佐枝の悲鳴が辺りに響き渡る。
響き渡ったはずだが、近くにいる人々はそれに気づいた様子もなく彼女達の傍を通り過ぎる。
悲鳴が聞こえていないのだ。
それでも佐枝は叫び続ける。
美鈴は野川明美が殺された時のことを思い出す。あの時と同じように彼女達の姿や声は周りの人々には気づかれないのだ。
魔鈴と加瀬の格闘は続いていた。
魔鈴は何度も跳びかかり、爪をたてて加瀬の顔を切りつける。
加瀬は次第に道の脇に追い詰められていく。 魔鈴は更に跳びかかる。それを裂けた加瀬は道ばたに倒れ込む。そのとき、加瀬の右手に冷たい感触の何かが触れる。
鉄パイプだった。
加瀬はすばやくそれを手にすると、跳びかかってきた魔鈴に振り下ろす。魔鈴は短い悲鳴を上げて地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。その隙に加瀬は佐枝から美鈴を引き離す。
そして二人は煙のように佐枝の前から消えてしまった。