踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
「それから、こんなこともあったわね」
沙保里はまた別のイメージを美佳の脳裏に送り込む。
スーパーマーケットの前に沙保里達五人が屯している。声を潜めながら何かを企んでいる。
「だからさ、何でも良いんだよ。盗ってくるものなんて」
「そうそう、あんたの勇気が見たいんだからさ」
「大丈夫、私達が見張ってあげるからさ」
美佳達は口々に沙保里を説得する。
どうやら沙保里に万引きをさせようとしていた。勿論、彼女達の目論見など判っていた。今まで何度同じ様なことを言われて万引きを繰り返してきたのだろうか?いつも彼女達は見張り役で、実行するのは必ず沙保里だった。 沙保里はもういい加減にこんなこと辞めたかった。これまでは運良く見つからないできた。けれども、それはあくまでも運が良かっただけなのだ。こんなことを繰り返していけばいつかは捕まってしまう。そんなことは判りきっていた。
それならば、美佳達との付き合いを辞めてしまえばいい。沙保里は何度となくそう考えていたが、そうした時の彼女達の仕返しが怖くて出来なかった。
「さあ、行くよ」
響子が促すように言い、それを切っ掛けにして四人が沙保里を取り囲んでスーパーマーケットの中に入っていった。
沙保里は脅えながら店内を廻っていく。どれを盗ったらいいものか決めかねていると取り囲んでいる誰かの声がした。
「何してんだよ、早く決めろよ」
その言葉は沙保里の心を貫いた。恐怖が彼女を包み込む。沙保里の心は抵抗することを諦めた。
盗るならなるべく小さいものにしよう。それならば見つかりにくいから…。沙保里はそう考えてお菓子売り場に移動し、その中で一番近いチョコレートに手を伸ばした。それを見計らったように、それまで沙保里を取り囲んでいた壁が一斉に四散し、チョコレートを鞄に入れようとする沙保里の姿が曝されてしまった。
沙保里の体は一瞬固まってしまったが、それでも努めて冷静を装って店の外に出て行った。
その時、
「ちょっとお客さん」
沙保里は背後から声をかけられた。沙保里の恐怖は頂点に達した。返事も出来ずに俯いてしまう。
「お客さん、お会計の済んでないものがありませんか?」
声をかけてきたのは万引きを専門に監視している警備員だった。
沙保里は観念して鞄の中からチョコレートを出した。
「ちょっと事務所まで来てね」
警備員は沙保里の手を取ってスーパーの中に消えていった。
その様子を物陰から見ていた四人の顔に残忍な笑みが浮かんだ。
沙保里はまた別のイメージを美佳の脳裏に送り込む。
スーパーマーケットの前に沙保里達五人が屯している。声を潜めながら何かを企んでいる。
「だからさ、何でも良いんだよ。盗ってくるものなんて」
「そうそう、あんたの勇気が見たいんだからさ」
「大丈夫、私達が見張ってあげるからさ」
美佳達は口々に沙保里を説得する。
どうやら沙保里に万引きをさせようとしていた。勿論、彼女達の目論見など判っていた。今まで何度同じ様なことを言われて万引きを繰り返してきたのだろうか?いつも彼女達は見張り役で、実行するのは必ず沙保里だった。 沙保里はもういい加減にこんなこと辞めたかった。これまでは運良く見つからないできた。けれども、それはあくまでも運が良かっただけなのだ。こんなことを繰り返していけばいつかは捕まってしまう。そんなことは判りきっていた。
それならば、美佳達との付き合いを辞めてしまえばいい。沙保里は何度となくそう考えていたが、そうした時の彼女達の仕返しが怖くて出来なかった。
「さあ、行くよ」
響子が促すように言い、それを切っ掛けにして四人が沙保里を取り囲んでスーパーマーケットの中に入っていった。
沙保里は脅えながら店内を廻っていく。どれを盗ったらいいものか決めかねていると取り囲んでいる誰かの声がした。
「何してんだよ、早く決めろよ」
その言葉は沙保里の心を貫いた。恐怖が彼女を包み込む。沙保里の心は抵抗することを諦めた。
盗るならなるべく小さいものにしよう。それならば見つかりにくいから…。沙保里はそう考えてお菓子売り場に移動し、その中で一番近いチョコレートに手を伸ばした。それを見計らったように、それまで沙保里を取り囲んでいた壁が一斉に四散し、チョコレートを鞄に入れようとする沙保里の姿が曝されてしまった。
沙保里の体は一瞬固まってしまったが、それでも努めて冷静を装って店の外に出て行った。
その時、
「ちょっとお客さん」
沙保里は背後から声をかけられた。沙保里の恐怖は頂点に達した。返事も出来ずに俯いてしまう。
「お客さん、お会計の済んでないものがありませんか?」
声をかけてきたのは万引きを専門に監視している警備員だった。
沙保里は観念して鞄の中からチョコレートを出した。
「ちょっと事務所まで来てね」
警備員は沙保里の手を取ってスーパーの中に消えていった。
その様子を物陰から見ていた四人の顔に残忍な笑みが浮かんだ。