踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
 小島は防戦一方だった。
 黒い人物の凶器を避け、恵達の方に気を配っているので、相手に効果的な一撃を加えることが出来なかった。ナイフが闇を切り裂いていくたび、小島は後ずさっていく。背後にある塀が次第に近づいてくる。
 一方、苦労人物のナイフは小島の皮膚をかすめてきた。黒い人物は手応えを感じながら小島に迫っていく。
 恵は彼等の攻防を目の当たりにしながら、美佳のそばを離れることの出来ない自分に歯がゆさを感じていた。
この状態を何とか打開しなければ。
 恵は刑事課にダイヤルし応援を要請した。
 追い詰められた小島の背中がついに塀に触れてしまった。,これで逃げ道は左右方向に限定された。それを知った黒い人物はナイフの切っ先を左右に繰り出してくる。小島は体を捻ってかわしていたが、何度目かの黒い人物の攻撃が来た時、それから逃げるタイミングを外してしまった。
 黒い人物のナイフが小島の脇腹を深く貫き、充分な手応えを楽しんだ後、それを引き抜く。
 焼けるような激痛が小島の体を走る。その衝撃で小島はその場に跪いてしまう。
 小島のシャツがじわじわと赤く染まっていった。
「小島さん!」
 恵が思わず叫んだ。
 その声で黒い人物の注意が目久美に向かう。 その隙を突いて小島が黒い人物にタックルする。
 黒い人物は背後から衝撃を受け、前のめりに倒れ込む。その勢いで持っていたナイフが宙を舞い、路面に落ちる。
すかさず恵が駆け寄り、ナイフを遠くに蹴り飛ばす。

 沙保里の注意が黒い人物に向けられた。
『紅い菊』はこのときとばかりに溜め込んでいた念を一気に解放した。念は一直線に沙保里に向かっていき、その体を弾き飛ばす。
 体勢を崩した沙保里は溜めていた念を闇雲に解放し、その念は『紅い菊』の右頬を掠めていく。
『紅い菊』の頬に浅い数センチの切り傷が走り、赤い血がじわりと滲んでくる。それをものともせずに『紅い菊』は4沙保里の懐に入り込む。
「勝負あったな」
『紅い菊』は笑みを浮かべる。
「いいえ、まだよ」
 沙保里はそう応えると最後の念を『紅い菊』の胸元に放つ。
『紅い菊』はその力に押されて数メートル弾き飛ばされた。
 その隙を突いて、沙保里は闇の中に消えていった。
 体勢を立て直した『紅い菊』は徐々に美鈴に戻っていった。
< 92 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop