踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
エピローグ
Ⅰ
吉田恵子が逮捕された翌日の夜、誰もいなくなった職員室で野本義男はその日の残務整理をしていた。黙々と作業を続けている野本の目は暗く沈んでいた。
この学校で五人の死者が出てしまった。それも全て野本の受け持つクラスから…。
虐められていた者が死に、時を開けて今度は虐めていた者達が死んだ。
そうなってしまったことの背景には自分の無責任な行動があったことを野本は悟っていた。
あの時、校長や教頭、父兄への体面を気にせずに真摯に対応していれば、このようなことは起こらなかったのかもしれない、野本にはそれが悔やまれて仕方がなかった。
作業が見に入らない、ただ時間だけが虚しく過ぎていった。
それでも暫くの間、野本はその作業を続けていたが、遅々として進まない為に今日中に片付けることを諦めた。
散らかった机の上を片付けていく。
ふと視線を職員室の扉の方に向ける。
そこに赤黒い影が佇んでいる。
影はぼんやりとしたその形を変えていき、やがて人の形となる。その輪郭は次第にはっきりとして野本の目に映る。
「先生、お久しぶりです」
影が話しかけてくる。
その声を野本は忘れたことがなかった。
「吉田…」
野本の目の前に吉田沙保里が立っていた。「先生、あの時何故、私を4助けてくれなかったの?」
悲しげな沙保里の声が野本の頭の中に入り込んでくる。
野本はその問いに答えられなかった。
その時、野本はやっと不自然なことが目の前で起こっていることに気がついた。
吉田沙保里は死んだのだ。ここにいるはずはない。ならばここにいるのは何なのだ。
野本は冷たい水を全身にかけられたような悪寒を感じた。
「誰だ、お前は…」
野本の声が擦れていく。
「私よ、吉田沙保里。」
沙保里の唇が歪んでいく。
「先生、私寂しい。私のところに来て…」
野本の意識が薄れていく…。
暫くして野本の意識が戻った。ぼんやりとしていた風景が少しずつはっきりしてくる。
そして全てが明瞭になった時、野本は屋上のフェンスの外にいる自分を知った。
「先生、来て」
後ろから何かが彼を突き飛ばした。
野本の悲鳴が吸い込まれていった。
この学校で五人の死者が出てしまった。それも全て野本の受け持つクラスから…。
虐められていた者が死に、時を開けて今度は虐めていた者達が死んだ。
そうなってしまったことの背景には自分の無責任な行動があったことを野本は悟っていた。
あの時、校長や教頭、父兄への体面を気にせずに真摯に対応していれば、このようなことは起こらなかったのかもしれない、野本にはそれが悔やまれて仕方がなかった。
作業が見に入らない、ただ時間だけが虚しく過ぎていった。
それでも暫くの間、野本はその作業を続けていたが、遅々として進まない為に今日中に片付けることを諦めた。
散らかった机の上を片付けていく。
ふと視線を職員室の扉の方に向ける。
そこに赤黒い影が佇んでいる。
影はぼんやりとしたその形を変えていき、やがて人の形となる。その輪郭は次第にはっきりとして野本の目に映る。
「先生、お久しぶりです」
影が話しかけてくる。
その声を野本は忘れたことがなかった。
「吉田…」
野本の目の前に吉田沙保里が立っていた。「先生、あの時何故、私を4助けてくれなかったの?」
悲しげな沙保里の声が野本の頭の中に入り込んでくる。
野本はその問いに答えられなかった。
その時、野本はやっと不自然なことが目の前で起こっていることに気がついた。
吉田沙保里は死んだのだ。ここにいるはずはない。ならばここにいるのは何なのだ。
野本は冷たい水を全身にかけられたような悪寒を感じた。
「誰だ、お前は…」
野本の声が擦れていく。
「私よ、吉田沙保里。」
沙保里の唇が歪んでいく。
「先生、私寂しい。私のところに来て…」
野本の意識が薄れていく…。
暫くして野本の意識が戻った。ぼんやりとしていた風景が少しずつはっきりしてくる。
そして全てが明瞭になった時、野本は屋上のフェンスの外にいる自分を知った。
「先生、来て」
後ろから何かが彼を突き飛ばした。
野本の悲鳴が吸い込まれていった。