アクセサリー
 今まで彩乃はバイトを休みたいときがあっても、悪い気がして、結局休まなかった。ちょっとぐらい体調が悪くても、がんばって働いた。急にちょっとした予定が入っても、バイトを優先した。バイトは前から予定に入っていたわけだから、それを休むのは悪いことであり、だらしないことだと考えていた。だから彩乃は無遅刻、無欠勤。
だけど今回ばかりはそんなこと言っていられない。これは一大イベント。
 絶対休もうっと!
 バイトを休むことに対し、何の罪悪感も持たないのは今回が初めてかもしれない。
 さっそく隆一に返信メールを打つ。
 件名は変えた方がいいかしら?
 切り出し方はどうしよう?
 明るい自分を演出した方がいいかな?
 打っては打ちなおし、読みかえして、また始めからやりなおしたり。
 隆一にどう思われるかな?
 どんな返事がくるかな?
 こないかも?
 疑問文にしたいけど、わざとらしいかも?
 期待したり、不安になったり。うんうんと頭をひねりながらの試行錯誤の結果、やっと完成する。ようやくメールの送信ボタンに情感を込めて押す。気がつけば三十分たって
いた。隆一への初メールだ。
 こんなことを意識してしまう自分の幼さに彩乃は恥ずかしくなった。恥ずかしくなったが、なんだか楽しい。  
 胸のドキドキがおさまらない。体は火照って冷めない。
これから一週間はこんな調子だろうか。騒がしくなりそうな予感に胸が躍っていた。
< 13 / 86 >

この作品をシェア

pagetop