アクセサリー
 隆一はタカミの気持ちが分かる気がして切なくなった。何のために生きるのだろう? 
 何が楽しくて生きるのだろう? 
 生きる意味なんて、そもそも無ければ、この命に意味も価値もありはしない。
 生きる意味は自分自身で見つけるものなのかもしれない。だが、見つける、見つけないは個人の自由だ。見つけることに現時点で価値は見出せない。
 隆一は未来に期待なんかしていない。希望を持たないこと、期待をしないこと、それが自分自身を保つ方法だった。
 タカミの言う人生の命題は隆一も胸に抱えている。
 自分がどうなろうと構わないのだ。同時に自分はタカミにとって誰でも良かった存在であったことを知った。なんとなく分かってはいたけれど、赤裸々に心情を吐露されると胸にぽっかりと穴が空いたように切ない。切ない気持は何で満たされるのだろうか。

 タカミとはその一晩で終わらなかった。
特に愛おしいと感じたわけではないけれど、自分と同じものを感じて、タカミが休みの日には会うようになった。
 会う場所は現実を忘れさせてくれるような空間。きれいな夜景が見えるところだったり、大自然を感じる場所だったり。
 タカミはときどき、くすっと笑うことはあったが、心から笑うことはなかった。
 タカミの笑顔が見たいわけじゃない。タカミは自分に素直に生きているのだ。二月の合コンや、職場のように作り笑いをしていないのだ。これが裸のタカミなのだ。
自分を殺して現実世界を生きる。その苦悩をタカミは話した。バカな客の相手をして、バカな上司の言うことを聞き、年を重ねていく。自分は女だから、いつか仕事を辞めるだろう。出世なんて興味がない。早く結婚して辞めてしまうのが、普通なのかもしれない。ただその先の生活は何が待っているのだ。期待も希望の光も見えない真っ暗な洞窟を延々と歩くようなもの。誰にも会えずに光を浴びることもできずに、肉体は朽ちていく。
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