アクセサリー
午後四時。
四限の「国際経済Ⅱ」が終わる。ぞろぞろとあふれでる学生の群れ。隆一はせまいところに人がひきめきあう感覚が嫌いだ。意味もなくブリーフケースの中を整理しながら、ぞろぞろ教室を出る学生が少なくなるのを待つ。 人口密集度が低くなったときを見計らってから教室をあとにした。
今日は今週最後のバンド練習がある。場所はおとといと同じ吉祥寺。土日は都合が悪く集まることができないので、今日は普段の倍の四時間でスタジオを予約している。
予約したのは五時だからまだ若干余裕がある。早めにスタジオに入って時間をつぶしてもいいのだが、どうせ四時間もそこで練習するのだ。あんまり早くからいるのもどうかと思う。
胸のポケットからバイブレーションの音がする。携帯を取り出すと徳さんから「少し遅れる。先にやっていてくれ」という内容のメールが届いていた。
ふうん、徳さん遅れるんだ。
了解! という返信メールを作成していると、彩乃に返信していないことを思い出す。
いけない。忘れていた。
あわてて彩乃に返信しようとする。
隆一はよく返信を忘れる。後でいいか、と思ってしまうのだ。よくないことだ、と思うものの、ついつい先延ばしにしてしまう。裏を返せば、その人間に対してあまり関心がないだけということになる。
親指で彩乃へのメールを作っているとき、
「隆一君?」
という声がした。
「ん?」
振り返れば、そこに彩乃がいた。
「ああ……。彩乃じゃん」
返信をしていなかったうしろめたさと急に現れた驚きであたふたする。
「あのね、十一月一日のことなんだけど……」
「ああ、ライブのことだよね……。ごめん、返信できなくて……。今頃返信しようと思っていたんだ。遅いよね? ごめん」
「うん。別にいいの。あの、私参加させてもらうね」
「参加してくれるの? うれしいな、ありがとう」
返信が遅れたミスを埋め合わせるように笑顔で素早く返答した。早く返答したからって埋め合わせになるわけでもないのに。なんでこんなことをしてしまうのだろう。
四限の「国際経済Ⅱ」が終わる。ぞろぞろとあふれでる学生の群れ。隆一はせまいところに人がひきめきあう感覚が嫌いだ。意味もなくブリーフケースの中を整理しながら、ぞろぞろ教室を出る学生が少なくなるのを待つ。 人口密集度が低くなったときを見計らってから教室をあとにした。
今日は今週最後のバンド練習がある。場所はおとといと同じ吉祥寺。土日は都合が悪く集まることができないので、今日は普段の倍の四時間でスタジオを予約している。
予約したのは五時だからまだ若干余裕がある。早めにスタジオに入って時間をつぶしてもいいのだが、どうせ四時間もそこで練習するのだ。あんまり早くからいるのもどうかと思う。
胸のポケットからバイブレーションの音がする。携帯を取り出すと徳さんから「少し遅れる。先にやっていてくれ」という内容のメールが届いていた。
ふうん、徳さん遅れるんだ。
了解! という返信メールを作成していると、彩乃に返信していないことを思い出す。
いけない。忘れていた。
あわてて彩乃に返信しようとする。
隆一はよく返信を忘れる。後でいいか、と思ってしまうのだ。よくないことだ、と思うものの、ついつい先延ばしにしてしまう。裏を返せば、その人間に対してあまり関心がないだけということになる。
親指で彩乃へのメールを作っているとき、
「隆一君?」
という声がした。
「ん?」
振り返れば、そこに彩乃がいた。
「ああ……。彩乃じゃん」
返信をしていなかったうしろめたさと急に現れた驚きであたふたする。
「あのね、十一月一日のことなんだけど……」
「ああ、ライブのことだよね……。ごめん、返信できなくて……。今頃返信しようと思っていたんだ。遅いよね? ごめん」
「うん。別にいいの。あの、私参加させてもらうね」
「参加してくれるの? うれしいな、ありがとう」
返信が遅れたミスを埋め合わせるように笑顔で素早く返答した。早く返答したからって埋め合わせになるわけでもないのに。なんでこんなことをしてしまうのだろう。