アクセサリー
 人目も気にせずに直美は大きな声を出す。彩乃は大声にあたふた動揺してしまう。
「そんな大きな声出さないでって……」
「何よー。一人だけ楽しいことしちゃってー」
「……別に付き合ってるわけじゃないからね」
「ふうん……、それはそれは楽しいわねえ……。そしたら私はおジャマかしら?」
「それは……」
「いいって。じゃあ先に帰るからねぇ」
 まるで自分のことのように直美は喜んでいる。じゃあ、おシアワセに……、と笑いながら帰っていく。
「ふう」
 彩乃は小さく肩で息をした。そのまま小さくなる直美を見送る。もう見えなくなりそうなところで直美はこちらを振り向き手を振った。彩乃は手を振りかえす。
 何か言っているようだが、全然分からない。
 すっかり見えなくなったところでパルコの入り口前へ向かう。入り口ってここでいいのかな? 少々不安になるが、多分ここだろう。
 入り口前にやってくる人の群れに隆一がいないか、必死に目をこらす。隆一が見つける前に先に見つけて、手を振りたい。
 小さな体を精一杯背伸びして探す。なかなか見つからない。もしかしたら他の入り口だったのかな? なんて考えてながらパルコを見上げた。
 夜の吉祥寺に光輝くパルコ。
 PAが赤で、Rが黄色で、COが青なんだ……。いつもは大して気にもならないことだが、こんなときは意識して眺めてしまう。
 目の前には、手をつないで歩いたり、こちらが恥ずかしくなるぐらいに体を密着させて歩くカップルが通り過ぎていく。   
少し前の彩乃は、そんなカップルを人ごとのように眺めていた。街に流れるラブソングも、テレビで紹介される恋人たちのスポットも自分に関係ないように思えていた。いつか 自分も好きな人ができて、結婚して、こんな場所に行くのかなあ? と漠然した気持ちでいた。
 しかし、今はそんなことはない。自分も隆一とこういうふうに手をつないで歩けるカップルになりたい。隆一との思い出をラブソングに重ね合わせて、感動したい。恋人たちのスポットに二人で行って、隆一と同じものを見て、食べて、感じたい。体を密着させて外を歩くのはどうかとしても、恋人になりたい。羨望のまなざしを目の前を歩くカップルに注いでいた。
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