アクセサリー
 思ったより身長が低い。細身ですらっとしているので大きく見えたのかもしれない。
 そうしているとダイヤ街のドナに着く。店内はぱらぱらとしか人がいなかった。隆一は ナポリタンを、彩乃はダイジリンティーを注文した。
 隆一はギターケースを椅子の背に立てかけ、手をテーブルの上に置いた。
 彩乃は隆一の手に視線がいってしまう。隆一の手は少しだけごつごつしていて大きい。野球か何か部活をやっていたのかな? 指も長い。彩乃はそんな手を見ているとまたドキドキする。もしかしたら自分は〝手フェチ″かもしれないと思う。それに隆一は服装がしゃれている。ライダース・ジャケットから見える時計やペンダントといったアクセサリーが素敵に、また色っぽく見えた。
「隆一君ってオシャレだね」
 彩乃はそう言いながら、もっと今日は自分もおしゃれな服にすれば良かったと悔やむ。パーカーとかジーンズじゃなくて今度はスカートとブーツにしよう。
「あっ、そうそう。ライブのことなんだけどね……」
 隆一が本題を思い出して話しはじめる。
 演奏予定は十曲で、グレイとラルクが五曲ずつ。時間にすると一時間あるかないかぐらい。
 MCで何をしゃべろうか? と悩んでいる。あっ、MCって分かる? 曲と曲の間のトークのことだよ……。それからね、トモヒロさんっていうベーシストがいるんだけど、かなりのイケメンなんだよ。ドラマの二千人近いオーディションで最終選考まで残ったんだよ……。
 隆一の話を笑顔で聞いている。ときおり相づちを打ったり、笑ったり、びっくりしたり。今日は会話につまるなんてことはない。今日は上手くいっている。後悔すべきは今日のヤボったい服装だけだ。
 ナポリタンとダージリンティーを運ばれてきた。
「パスタをこう食べるのが正しいって思ってない?」
 そう言って隆一はスプーンの上でパスタをフォークでからめる。
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