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 どこかの番組でコメンテーターが分かったような顔で言うかもしれない。小学生や中学生のときに書いた文集も取り上げられるかもしれない。そういえばなんて書いただろうか。カメラマンになりたいと書いた気がする。カメラマンになる夢潰える! と報道されるかも。
 隆一はふふっと小さく鼻で笑った。
 死後の世界の騒動を予想すると可笑しい。予想しても予想しきれないほどの可能性がある。もしかしたらまったく注目されない可能性もある。
 死への妄想途中に、特急電車は隆一の前を過ぎた。風で前髪が揺れる。
 死ではなく生に向けて考えてみよう。
 隆一が今やるべきことはライブを成功させること。でも、ライブが終わったら何があるのだろう。バンドはおそらく解散する。ゴリメタルのバンドに混ぜてもらうのも、あまり気がすすまない。
 立川行きの電車がやってくる。それほど混んではいない。隆一は一人でも少ない車両を探して乗り込む。
 隆一は席に座った。暖かい車内で、ふうと一息をつく。今まで、なんとなく楽しいことをやって過ごしてきた。
 その考えでこれからもやっていけるのだろう
か。いつかはしっかりと考えなければならな
いときがくることは分かっている。その考え
るべきことは……。
 正面のガラスに映る隆一の顔。そこで思考
はストップした。考えたくなかった。今を生
きればいい、先のことなんて誰にも分らない。例えば、地球温暖化なんて騒いでいるけれ
ど、いくら予測をたてたところで予測にすぎ
ないのだ。未来など誰も分かりはしない。
 今をただ、風のふくままに生きればいい。そんな映画をこの前に見たところだ。
 隆一は自分に言い聞かせる。
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