アクセサリー
 隆一は彩乃のことはあまり考えていない。正直どうでもいい。しかし隆一はどうでもいいから、何もしない人間ではない。どうでもいいからこそ、何でもする、何でもできてしまう人間だ。意味もなく手を握ってみたり、ほほをつまんでみたり、携帯番号を交換してみたり、ライブや食事に誘ってみたり。
 だが、彩乃が隆一に好意を抱き、真剣になられると面倒くさい。もっと刺激がないと物足りない。それは視覚的な刺激でもいいし、触覚的な刺激。タカミのように隆一と考え方が似ているのもおもしろい。
 彩乃にはその要素がないから、隆一は今以上の気持ちにはならない。
 思想家気分であれこれ考えをめぐらせていると、電車は立川に着いた。電車を降りて階段をのぼる。
 あいかわらず、たくさんの人でごった返している。そういえば、駅内に『eキュート』というデパートが最近できたようだ。
 資本主義の波は際限なく、様々な場所を新しく追加設備していくのだろう。商品でもどんどん新しい機能が追加されていく。それは便利を通りこして、うっとうしくなり、昔が恋しくなる。少し物足りないぐらいの環境の中なら、モノの価値が高まる。しかし、こうもモノが流通し、あふれているとモノの価値が下がっていく。貪欲にもっと良いモノがほしくなってしまう。お金に羽が生えたように財布から飛び立って、部屋にスタイイッシュな小物がそろっていくのだ。
 結局、金だ。商品を売りさばきながら、客に向って笑顔を見せるやつらはすべて金に頭を下げているのだ。くたびれて生気のないサラリーマンのオッサンたちが資本主義の犬だ。お前らはネットカフェ難民ではなく、魂の難民たちだ。行き場のない魂を抱えて、生きていればいいのだ。フリーターやニートを小バカにして生きていけ。
 隆一は現代日本社会に高々とアンチテーゼを掲げた。かと言って共産主義か社会主義を望んでいるわけでもない。結局のところ、批判するだけ批判して、何の解決策もあるわけではない。ただの口先だけの男だ。隆一はむなしい気持になって改札を抜けた。

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