アクセサリー
「遅かったじゃない」
 彩乃が家に帰ると、リビングで母が無表情で言った。時計は十一時を過ぎていた。
「そういうときもあるよ」
 彩乃も無表情で言った。
「十時には帰ってきてほしいの。心配して言っているんだから」
 十時に帰ってこいなんて……、何もできないじゃない。彩乃はそう思って下唇を噛んだ。
 まだ十八だから?
 未成年だから?
 一人娘だから?
 そりゃ、一人娘は大事に育ててきたかもし
れないけれど、二十歳を過ぎたら門限がなくなるの? 
 今まで門限があっても、それまでに彩乃は帰宅するようにしていた。いや、門限をオーバーする必要性のあることがなかった、の方が正しいかもしれない。
 バイトの時間も調整してもらったり、時間が遅くなるようなコンパには参加しなかったりした。
 今まで言いつけを守ってきたが、ときには破らなければならないときもある、と彩乃は思った。
 ブウーン。
 車が止まる音がする。
 父が仕事から帰ってきたようだ。母は父を迎えに玄関に行くため、立ち上がった。
「今後気をつけます!」
 彩乃はそう言って二階に上がる。
バタン! 
 部屋の扉を力強く閉める。
「はぁ」
 力なくため息が出てしまう。少し憂鬱な気持ちでベッドに座った。
 隆一のことも、門限のことも、思ったようにうまくいかない。人生で思い通りに進むことってないのかもしれない。
「一人暮らしがしたい」
 ぽつりとつぶやく。一人なれば何でも自由にできる。両親の束縛から解放されたいと思う。
 携帯を見ると、母の着信のほかに直美のメールが届いている。
 
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