アクセサリー
 隆一は教室の隅で飢魔愚0のライブを見ていた。
 今、演奏している曲は『NIRNAVA』というバンドの『RAPE ME』という曲だ。隆一は『NIRNAVA』の曲は割と好きで高校時代によく聴いていた。『NIRVANA』は、すでに解散しているが、コアなファンは多いし、コピーするのも難しくはない。バンドの選択は間違ってはいないと思うが、選曲は誤っている。
一曲目の途中に八人にいた観客は二人減った。しかし、そのうち四人はゴリメタルの友達らしく、にやにや笑いながら演奏を眺めていた。

「RAPE ME!!」
 腹の底から絞りだすような声でゴリメタルは歌っている。どういう意図で一曲目に『RAPE ME』を持ってきたのかは分からない。だが、その様子を見ていると隆一は少しゴリメタルに感心するようになっていた。
多分、隆一ならばこんな観客がひいてしまうような選曲はしない。それが好きな曲であっても。
 たとえ演奏したとして、観客がひいたような素振りをみせたならば、堂々とはしていられない。早く演奏が終わることを祈りながら、怯えながら、何が悪いでもないが、うしろめたさを感じながらうつむいているだろう。
 ゴリメタルにはそれが微塵もない。逆に演奏をやりきってすがすがしい顔をしていた。
「次、行きますよ!」
ゴリメタルが叫ぶと今度はオリジナル曲が始まった。ハードロック調の洋楽を意識したような楽曲だった。別に悪い曲ではない。三曲目には『LUNA SEA』のコピー曲を披露していた。
「今日は……、はあ、どうもありがとう」
 三曲終えたところでMCを始めた。少し息がきれている。
 隆一は時計に目をやると一時二十五分。十五分しかたっていない。残り二曲だったら、 MCを入れてももたもたしても二十分後には終了するだろう。
 MCにどれだけ時間を使うか分からないが、ゴリメタルが二回やりたい気持ちも分かる。隆一は準備をするために一度教室を出た。
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