アクセサリー
 教室の外には徳さんとトモヒロさんがいた。徳さんはダメージ・ジーンズを履いて、白いカットソーに細めの黒いジャッケットを着ていた。
 トモヒロさんはふだんとあまり変わらない(もともとふだんがしゃれている)が、今日の徳さんはしゃれた服装をしている。気合いが入っているのだろう。しかし、様子がおかしい。
「ちっ……、うーん……」
 徳さんは小さく舌打ちをしたり、腕組みをしたり。今日の徳さんはどこかおかしい。携帯をチェックしたり、何かぼそぼそつぶやいたり、そわそわして落ち着かない。
「どうかした?」
思わず隆一は徳さんの顔をのぞきこんで尋ねる。どうしても気になってしまう。
「いや……」
 徳さんは少し取りつくろうような笑顔を見せた。
「大丈夫?」
 隆一の問いに右手を軽く上げて無言の返事をしたが、そわそわした様子は一向に変わらない。
 本番前で緊張しているのだろうか? 分からないこともないが、徳さんはそんなプレッシャーに弱い人だったのだろうか。トモヒロさんは特に変わりない。

「遅れました」
 玄太郎があわててかけよってきた。
「ピカ子は元気だった?」
 トモヒロさんがからかうように言う。
「毎日元気ですよ」
 玄太郎は息をきらしながら、笑顔で答えた。
「ふうん……、ちょうどいいときに来たな。そろそろ出番じゃないか?」
 トモヒロさんが教室をのぞきながら言った。飢魔愚0は五曲すべて演奏が終わったようで片付けを始めている。
 一時四十分。まあ、こんなもんだろう。隆一はギターフレーズを思い出して手を動かす。爪を見て、少し切りそろえすぎたような気がした。
 徳さんはまだそわそわして、歩きまわっている。
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